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do-ya?[ドーヤ?]

「大丸」の過去・現在、そして未来 ちょっといい話(ホスピタリティ編)

どや!

300年以上前から続く「大丸」は日本を代表する老舗百貨店である。江戸時代の浮世絵には開業当時の呉服店・大丸の賑やかな様子が伺える。1950~70年代広告のデザインは半世紀後の現代人が見ても刺さるものがある。現代の多様な消費行動にマッチするサービスを求めて“変わる大丸”の過去・現在、そして未来を追ってみた。

edit:大阪日日新聞
writer:上部武宏 記者

【大・大丸時代】時代の先駆者

浮世絵に残る江戸時代の大丸。美しい色彩、斬新な絵柄で庶民の人気を集めた歌川広重の「江戸名所大伝馬町大丸屋呉服店の図」。店頭や道を歩く人々が生き生きと描かれている

「屋上はよいこの天国」「ご家族づれでたのしい一日をおすごし下さいませ」——。木馬、飛行塔、メリーゴーランドの遊具が屋上にあり、子どもたちでにぎわっていた頃の大丸のキャッチコピーだ。そして、「仕事と私はどっちも大切!」「足に疲れを見せないデキル女の出張パンプス」が登場したのは1990年代。「これにしとコート」は文字通りコートのファッション性を伝える広告デザインである。

「屋上はよいこの天国」メリーゴーランドがあった1958(昭和33)年の大丸。夏のカタログより

「仕事と私はどっちも大切!」「これにしとコート」。日本がバブリーだった1990年代の新聞広告。筆者は、商談がスムーズに成功する新・ビジネスバッグが気になる(笑)

戦後の経済成長、バブル経済などの時代背景を映し出したキャッチコピーや広告デザインは、消費者を店にいざない、ショッピングという行為に熱狂させた。それぞれの時代に適応した表現なわけだが、今見てもどこか新しい気がする。

大丸には創業以来変わらぬ「先義後利」という精神がある。1717年に京都・伏見で呉服店として創業した大丸はその後、大阪・名古屋・東京などに出店するが、江戸時代の昔から令和の現代に続くサービスの一つに「貸傘」がある。にわか雨に困る通行人に商標の「大」を描いた傘を提供してきた(※)。歌舞伎の舞台に「大」の傘が登場したり、浮世絵にも描かれたほどだ。

(※)梅田店は駅直結となったため、現在は実施していない。

【変わる大丸】時代の機微をとらえる

梅田店は、1983年4月27日に開業、2011年4月19日にはJR大阪駅の改築に伴って増床リニューアルした。これを機に、ショッピングの楽しさと日常使いの便利さを追求する「高感度×デイリー」の目標を掲げた。商圏内人口の減少や消費者ニーズの成熟化などの環境の変化を踏まえ、新たな百貨店モデルを構築した格好だ。

新モデルの象徴が、館内装飾の変化だ。「物」「商品自体」に焦点を当てたディスプレイから、2000年以降は「SALE」などのプロモーション告知を主体に、近年では「雰囲気」作り、環境装飾の強化に力を入れている。この時期になると、夏祭りの雰囲気を演出するため、提灯(ちょうちん)を飾るが、場所に適したサイズ、照度、取り付け方にもこだわる熱の入れようだった。

館内装飾の変遷。2000年くらいまでは「モノ」に焦点を当てた装飾が、2010年くらいから「SALE」などのプロモーションの告知を主体に、近年は「雰囲気」づくり、環境装飾の強化に力を入れている

また、館内イベントでも新機軸を打ち出した。2019年には、保健所や動物愛護センターに持ち込まれる捨て猫などの「保護猫」の譲渡会を世界猫の日(8月8日)に向けて取り組む。背景には社会課題の解決に貢献する狙いがあり、さらには持続可能な開発目標のSDGsの視点がある。

「『商品をたくさん売っているお店』という意味では、今や、百貨店は大手ECサイトに及びません」と大丸の広報担当者が語るように、世の中のライフスタイル、価値観の変化に合わせてくらしを豊かにする“顧客のお役に立てる”商品やサービスを提案している。

【次世代の大丸】リアルでもメタバースでも通じるもの

生活者に新しい体験価値を提供するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、現状の先にある次世代に向け新たな挑戦に取り組んでいます——。大丸が2020年12月に発表した試みは、まさに「次世代」を意識したものだ。

メタバース(仮想現実)の空間上で開催された「バーチャルマーケット」に2年連続で出展。年末年始の「ごちそうグルメ」として高級感のあるローストビーフやピザ、アイスクリームなどリアル食品の販売のほか、バーチャル空間でそのまま楽しめる3次元(3D)モデル食品も販売し、ユーザーに好評を得た。

バーチャル空間でビールの3Dモデルを持って乾杯やお誕生日会など、ユーザー同士の交流でコミュニケーションができる

過去、現在、未来を問わず守り続ける社是が大丸にはある。「先義後利」。義を先にして利を後にする者は栄える意味だ。業祖が掛け軸にして各店に配り、商いの心得を徹底させたと伝わる。「先義後利の教えを守りながら、挑戦し続けなければいけません」と全従業員が肝に銘じ、「お客様第一主義」を大切にする大丸の挑戦は続く。

大丸 歴代広告アーカイブス

1886(明治19)年 夏衣売出しの広告(全店一斉)
1933(昭和8)年お中元広告(大阪朝日新聞)
1935(昭和10)年ごろ 夏の研彩會カタログ
1958(昭和33)年、夏のカタログ
1959(昭和34)年のお中元ビジュアル
1960年代、夏の広告表面
1960年代、夏の広告裏面
1987(昭和62)年、お中元ビジュアル
2001(平成13)年、夏のクリアランスビジュアル