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今って昭和99年ですよね?阪田マリンが愛する、不完全で新しい「ネオ昭和」の魅力【ハイパー偏愛図鑑 Vol.05】

どや!

近年、若者を中心に再加熱している「昭和レトロブーム」。純喫茶のクリームソーダや使い捨てフィルムカメラ、海外にも波及した70〜80年代のシティ・ポップなど……令和に生きる若者にとっては「むしろ新しい」「エモい」と注目を集めています。今回は、昭和と現代の流行をミックスしたスタイルを「ネオ昭和」と名付けて発信し、年代問わず多くのフォロワーに支持されているインフルエンサー兼アーティスト・阪田マリンさんに、溢れんばかりの昭和愛を語っていただきました。

write:トミモトリエ
photo:納谷ロマン
edit:人間編集部

今回の偏愛者

阪田マリン

2000年12月22日、大阪府生まれ。中学生の時から昭和カルチャーにハマり、「ネオ昭和」をコンセプトに昭和の魅力を発信するインフルエンサー兼アーティスト。ネオ昭和歌謡プロジェクト「ザ・ブラックキャンディーズ」として音楽活動も行う。2024年6月12日に1st写真集『今って昭和99年ですよね?』発売。

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針を落とす手間が愛しい……細胞レベルで目覚めてしまったチェッカーズのレコード

ネオ昭和を感じるカラフルな「光る柱時計」の前で(JR大阪駅 桜橋口改札横)

──昭和カルチャーに目覚めたきっかけを教えてください。 

阪田さん:中学2年生の時に、祖母の家でレコードプレーヤーを見つけて、父が若い頃に買っていたレコードをかけてみたんです。最初に聴いたのは、チェッカーズの『SONG FOR U.S.A.』。針を落として音が流れた瞬間、全身にブワーッと鳥肌が立って、細胞レベルで目覚めてしまった感じです。ストリーミングで音楽が聴ける時代だったので、音が流れるまでの間とか独特のノイズが新鮮で愛しく感じました。音楽を一曲聴くのになんて手間がかかるんだろう……って(笑)

──サブスクで無限に音楽再生できる今では、考えられない手間ですよね。

阪田さん:そうなんです。手軽に聴いていた音楽がものすごく尊いものに感じました。もっと色んなレコードを聴いてみたくて、父に「今もレコードって売ってるの?」って聞いたら、「日本橋にたくさん中古レコードショップがある」って教えてくれて。それからは、お小遣いをもらっては日本橋にレコードを買いに行く日々でした。

「SONG FOR U.S.A.」は1986年に発売されたチェッカーズの11枚目のシングルであり、チェッカーズ2作目となる主演映画の主題歌。
デビュー当時からの 作詞:売野雅勇/作曲:芹澤廣明のコンビが携わった最後のシングル。

──どんなレコードを買ったんですか?

阪田さん:当時は全く知識がなかったので、ジャケ買いです。最初に買ったのは確か、シャネルズ(現在:ラッツ&スター)、矢沢永吉さん、山口百恵さん、小泉今日子さん。中学生のお小遣いで買える範囲で、帯なし・傷ありなどの理由で安くなっているものから選んでいたので、音飛びすることも多かったんですけど。それもレコードの面白さ。

あと、昭和の音楽って、シンプルで覚えやすい曲が多いじゃないですか。歌詞もわかりやすくてスっと入ってくる。最初に聴いた『SONG FOR U.S.A.』も、「ティーンネイジのまま大人になってくれ」っていう歌詞が、10代の自分にダイレクトに刺さりました。

昭和レトロを感じる駅構内のタイルは戦前から残っているそう(JR大阪駅 桜橋口改札内)

──ちなみに、当時はどんな音楽が流行っていましたか? 同級生の友達とは話が合わなかったのでは……。

阪田さん:当時は「AKB48」や「乃木坂46」の全盛期。私も、昭和にハマる前は「嵐」のファンで、うちわとか作ってライブに行ってたんですけど、いつの間にか推しが「少年隊」に……。でも、中学生の時は周りから浮いてしまうのが怖くて、昭和の音楽にハマっていることを隠していたんです。友達とカラオケに行く時は、昭和歌謡を歌いたい気持ちをおさえて、今時の曲を歌っていました。

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昭和のヤンキーに憧れて、スケバン風ロングスカートで登校!?

阪田マリンさんお気に入りの喫茶店、大阪駅前第1ビルの「King of Kings」にやってきました。

──昭和好きを公言したのはいつからですか?

阪田さん:高校生になってからです。昭和カルチャーに没頭していく反面、好きなものを好きと言えない自分にずっとモヤモヤしていたところ、昭和のヤンキー映画を見て、「なんで隠さなあかんねん!」と気付いて。周りを気にせず自分を貫き通すヤンキーの姿に影響されて、自分を曝け出してみたんです。

──ヤンキー映画の影響だったんですね。周りの反応はどうでしたか?

阪田さん:友達も面白がってくれて、意外とすんなり受け入れてもらえました。ただ、高校2年生の時に、制服を改造してスケバン風の超ロングスカートを履いて学校に行った時は、先生にめちゃくちゃ怒られたし、友達にも苦笑いされましたね(笑)

──そりゃそうでしょうね(笑)。でも、実際にグレたわけではなく、ファッションや世界観への憧れですよね。

昭和のヤンキー文化に憧れていた、高校2年生の阪田マリンさん(阪田マリンさん提供

阪田さん:そうですね。根はヤンキーじゃなくてオタクなので、やってることはコスプレみたいなものだったんですけど……。ヤンキー系の作品で特に好きなのが『ビー・バップ・ハイスクール』と『湘南爆走族』。実写版の映画は何回見たかわかりません。紡木たくさんの漫画も好きです。『ホットロード』とか『瞬きもせず』とか。

角川映画も大好き。『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子さんや『スローなブギにしてくれ』の浅野温子さんに憧れて、ファッションやメイクを真似しました。ミステリアスな雰囲気と、涼しさと色気を併せ持っているところがかっこいい!

──あの時代にしかない色気ってありますよね。露出の多さやグラマラスな体による色気とは違った、どこか憂いのある色気。

阪田さん:そうなんです。そういう意味では、中森明菜さんも大好き!! 彼女はアイドルという肩書きに収まらない、唯一無二の存在ですね。歌によって表情をコロコロ変えて、歌詞に描かれた人物像に感情移入できるアクトレス。『スローモーション』でデビューした時はあどけない清純派で、次の『少女A』では白黒反転したかのような不良路線。可憐な顔立ちなのに、クールで強がった表情……あのギャップがたまらないです。

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こだわりは肩パット! ネオ昭和を発信してXのフォロワー21万人に

──SNSで発信するようになったのはいつからですか?

阪田さん:高校2年生の時からです。昭和好きを公言してからも、友達は友達のままでいてくれたけど、あまり共感はしてもらえない。昭和好きの仲間を探したくて、X(旧:Twitter)やInstagramで「#平成生まれの昭和好き」ってハッシュタグをつけて昭和のファッションを投稿してみたんです。

最初は昭和世代の人が「懐かしい」って反応してくれました。でも、同世代のフォロワーさんがなかなか増えなくて……。若い人たちに昭和の魅力を伝えるために、新しい要素を取り入れた「ネオ昭和」というコンセプトで発信するようにしたら、投稿がバズるようになりました。

──服はどう選んでるんですか? 気をつけているポイントもあれば教えてください。

阪田さん:朝起きて、まずはSpotifyで昭和の音楽をランダム再生するんですけど、聴いた曲によってその日のファッションが決まります。今朝は菊池桃子さんを聴いてきたので、チェックのワンピースでかわいい感じにしました。

気をつけているのは、服装は昭和だけど、ヘアスタイルやカバン、靴など一部は今時のエッセンスを加えること。逆に、現代のファッションを「写ルンです」で撮影したり。服は、母や祖母のお古をもらったり、リサイクルショップで買います。肩パットが入ってる服が多いですね。今日のワンピースも肩パット入ってます。

──街で驚かれることも多いのでは……?

阪田さん:二度見されたり、「めっちゃ昭和やん」って声をかけられたりします。家を出る前に母に止められることもあって、バリバリのバブルスーツで出かけようとしたら「近所の目もあるから、それはさすがに駅とかで着替えて」って……。

80年代が一番好きなんです。レトロな要素を入れておしゃれに見せたいわけではなく、昭和に生きてる感覚。昭和のドラマを見る時も、インテリアやファッションが気になってしまって内容が入ってこないので、1回目は家具とか衣装とか小道具を中心に見て、2回目に内容を見るタイプです。

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夜ヒットの舞台セット、ラブホの貝殻ベッド……昭和の破天荒な発想が好き

──やはり、当時のテレビ番組をリアルタイムで見たかったですか?

阪田さん:もちろんですよ! テレビをつけたら中森明菜さんや松田聖子さんが映ってるってヤバいです!!! あと生放送だらけだったことも信じられない!! 『ザ・ベストテン』を生で見たかった。『夜のヒットスタジオ』のマイクを次のゲストに渡して1フレーズずつ歌うところも最高です。

──今はそういう番組はないですもんね……。

阪田さん:舞台セットにものすごいお金かけてた時代ですよね。過去のテレビ映像をDVDで見たんですが、菊池桃子さんの「サマーアイズ」という曲の舞台セットに衝撃を受けました。後ろにでっかいスイカが置いてあるんですけど、途中でそのスイカがパカって開いて、階段が出てきて……小さいステージになるんです。「誰がこんなん考えたん!?」って、その発想に驚きました。

※『30TH ANNIVERSARY 菊池桃子 in トップテン -日本テレビ秘蔵映像集-』収録

──テレビが一番面白かった時代かもしれませんね。お金もあって、自由度が高かった。

阪田さん:昔の番組のDVDを見てると、「今じゃ絶対ありえない」ってことだらけで、驚きしかないです。今の時代に生まれたからこそ、それを楽しめているんですけど。

あと、昭和のラブホテルもすごい! 本で見ただけなんですけど、異常に豪華で、ベッドが回転したり、貝殻の形になっていたり、滑り台やメリーゴーランドがあったり……もう、その発想がすごいなって。

──バブルの遺産ですよね。バカみたいな発想だけど、ノリと勢いで作ってしまった感じ。

阪田さん:昭和のノリって、下品なものも多いけど、あまり不快にならないんですよね。例えば、ヤンキー映画によくあるバイオレンスな喧嘩のシーンもどこかコミカルで、「こんなんあるはずない」って前提で、自分がバカになって見れるところがいいんです。今だったら「不適切」とされる表現だらけなんですけど、健全すぎても面白くない……。

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生き辛さの種類が違う、昭和の不便で不完全な美しさ

──まさに、今話題のTBSドラマ『不適切にもほどがある!』※の世界ですよね。今、こういうドラマが求められている理由はなんだと思いますか?

阪田さん:今の時代にどこか息苦しさを感じて、開放的だった昭和に憧れを抱いてしまうのかなと思います。もちろん、昭和は昭和で不便で生き辛い世の中だったと思うんですけど、生き辛さの種類が違う。「昭和に生まれてたら大変だよ」ってよく言われるんですけど、大変だったからこそ、得る喜びも大きかったんじゃないかと。

※不適切にもほどがある!:主演・阿部サダヲ、脚本・宮藤官九郎による、昭和のダメおやじが1986年から2024年に突然タイムスリップしてしまうドラマ

──スマホでなんでも簡単にできてしまう現代にはない喜びがあったでしょうね。

阪田さん:今は友達や恋人に連絡を取ろうと思ったら、スマホひとつで簡単にメッセージが送れるから、実家の黒電話で電話をかけて、本人が出るかもしれないしお父さんが出るかもしれない……みたいな緊張感って味わったことがないんです。でも、不便だったからこそ、恋人と電話で話すとか、街で偶然美味しいお店を見つけたとか、そんな小さなことに対する喜びの質が違った。昭和の不完全なところに惹かれるんです。「わざわざそんなことしてたん?」ってことが本当に愛しくて。

昭和のインテリアも、お金があっただけでなく、作り手の熱量が感じられるんです。ソファとか、天井やドアの取っ手……至るところまでこだわっていることが伝わる。今の建築やインテリアは合理的かつシンプルなものが多くて、洗練されているかもしれないけど面白くない。昭和のインテリアは統一感もなかったり、無駄が多いけど、そこがいいんですよね。

──昭和レトロなスポットでお気に入りの場所を教えてください。

阪田さん:喫茶店では、今日来ている「King of Kings」や「マヅラ」はプライベートでもよく来ます。スペーシーな世界感が天才的。大阪駅前第1ビルはレトロスポットの宝庫ですよね。あとは、新世界の「ドレミ」や阿倍野の「スワン」も大好きです。

スナックもよく行くんですが、特に好きなのは新世界にある「けいちゃん」。一曲歌うごとにおはじきが1個置かれて、最後におはじき1個100円で会計するシステムなんです。裏なんばの「蟻」もよく行きます。老舗のキャバレー「ミス・パール」や「ミス・大阪」がある通りを歩いて路地に入ったところにあるんですけど、あの光景が大好きで。近くにある「味園ビル」含め、絶対になくなってほしくないですね……。

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今って昭和99年ですよね? 消えていく昭和遺産をどうやって守るか

──昨今の昭和レトロブームについて、どう感じていますか?

最近、純喫茶に行くと若い人たちが増えたのを感じて嬉しい。でも、一過性のブームで終わってほしくないという気持ちが強いです。経営者の方々の高齢化や店舗の老朽化によって昔ながらのお店が減っていくのはどうしても避けられない。ただ、昭和カルチャーを愛する若者が増えたら、お店を残すために事業継承したいって人も増えると思うんです。実際に今、私の友達がとある喫茶店を引き継ぐ話をしていて、それが本当に嬉しくて。若い世代に昭和の魅力をもっと伝えたいです。

昭和レトロブームによりリバイバルされた石塚硝子の「アデリアレトロ」シリーズ(ハンズ 梅田店)
純喫茶看板ライトなど、ケンエレファントの昭和レトロなミニチュアフィギュアシリーズも人気(ハンズ 梅田店)

──夢や野望はあるんでしょうか?

阪田さん:色々興味があって、やりたいこと全部やりたいです。アーティストとしても、テレビ番組のMCやお芝居も、今は色々挑戦させてもらって、夢が叶いまくっている状態。本当にありがたいです。

思い出深いお仕事としては、チェッカーズが好きだということを言い続けていたら、鶴久政治さん(元チェッカーズ サイドボーカル)とトークライブをさせてもらう機会をいただいて。それだけでも舞い上がるほど嬉しいのに、鶴久さんがチェッカーズのさよならコンサートの時にかぶっていた帽子をプレゼントしてくれたんです。「まじすか!?」って。大事な大事な家宝です。

──最後に、今後の活動を教えてください。

阪田さん:6月12日に、1st写真集『今って昭和99年ですよね?』が発売されます! 熱海で、全ページフィルムカメラで撮影しました。昭和の新婚旅行の聖地だった熱海で、自分がやりたかった表現を全部やりきりましたね。ホテル「ニューアカオ」での撮影は夢の中にいるようでした。

 阪田マリン1st写真集『今って昭和99年ですよね?』(KADOKAWA)

あと、「ザ・ブラックキャンディーズ」として新曲をレコーディングしています。前回は新宿ゴールデン街を舞台にした内容でしたが、今回は大阪を舞台に歌詞を書いています!楽しみにしていてください。

──ありがとうございました!

大阪ステーションシティで昭和レトログッズが買えるお店

  • ハンズ 梅田店
    住所:〒530-8202 大阪府大阪市北区梅田3-1-1 大丸梅田店 10~12F
    営業時間:10:00~20:00
    定休日:大丸梅田店に準ずる
    お問い合わせ:06-6347-7188

この記事を書いた人

トミモトリエ
1976年東京生まれ、大阪在住。株式会社人間所属、人間編集部編集長。人間を編集する編集者であり、変を集める変集者。偏愛者を愛し、大阪に生息する超生命体を研究している。時代を蛇行する超生命体マガジン『ヘンとネン』で「超生命体の偏愛図鑑」更新中。年間400食カレーを食べるスパイス狂。