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クラフトビールは「美味い」と「上手い」を楽しめ!異端児・川本祐嗣(BAK)の麦酒愛【ハイパー偏愛図鑑 Vol. 02】

どや!

アイリッシュ・パブで飲んだギネスビールに魅了され、脱サラしてビール業界に飛び込んだ川本祐嗣さん。世界中に150種類以上もあるビールの中で、なぜ日本人は「ピルスナー」ばかり求めるのか? それってもったいなくない? 気付けばブルワーになり、奥深いビールの沼に……。

write:トミモトリエ
edit:do-ya?編集部

今回の偏愛者

川本祐嗣さん

大阪発のクラフトビールブルワリー「BAK(バク)」を運営する、株式会社JCTN代表取締役。2015年にJCTN(現:クラフトビール酒場 BAK 堂島 JCT.)をオープン。クラフトビールのおもしろさをもっと世に広めようと、2018年にビール・発泡酒の製造免許を取得。現在は堀江に新醸造所を構え、独自の醸造スタイルで他にないビールを販売している。
BAK公式サイト

マニアックなクラフトビール造りで業績を上げている、大阪のクラフトビールブルワリー「BAK(バク)」。今回は、2023年にオープンした「BAK HORIE Brewing Studio」におじゃまして、変態ブルワーと名高い川本祐嗣さんにお話を伺いました。

\ドヤ/
ギネスビールを愛し過ぎて脱サラ

──沼にハマったきっかけを教えてください!

川本さん:昔からビールは好きだったんですが、若い頃は安い発泡酒ばかり飲んでました。でも、23歳くらいの時に、仕事の先輩に連れて行ってもらったアイリッシュ・パブで「ギネスビール※」を飲んで大衝撃を受けて。

ビールが1杯1,000円するんや……ってところから、え? すぐ飲んだらあかんの? 119.5秒待つ? なんだこのなめらかな泡は! なんだこのコクと深みは! …… と。一般的な日本のビールとは全く違う価値観に驚いて、そこからギネスビールにどっぷりハマりました。

そして、29歳の時に、サラリーマンを辞めてギネスビールと自家製ソーセージの店をオープンさせたんです。

※ギネス®ビール:1759年にアイルランドのダブリンで誕生した、上面発酵(エール)の黒スタウト。焙煎された香ばしさと、クリーミーな泡が特徴的。炭酸ガスに窒素ガスを加えた混合ガスを使い、完璧なパイントを注ぐのにサージング(使用量によって起こる水面振動)の工程で119.5秒かかると言われている。「ギネス」は、ギネスビール社の登録商標です。

──ギネスビール愛好家だったんですね。

川本さん:でも、悲しいことにギネスビールがなかなか売れなくて……お客さんに「普通のビールでいいや」って言われてしまう日々でした。「スタウト」と説明しても通じないし、単純に「黒ビールでしょ」ってひとくくりにされがち。黒ビールは苦くて飲みにくいイメージがあるんでしょうね。「とりあえず生」と頼めば提供されるような、日本人がイメージする「一般的なビール」とは違うので……。

──好きなものを受け入れてもらえない……マニアの葛藤が伝わります。

\ドヤ/
150種類以上あるのに、日本で飲まれているビールのほとんどがピルスナー

──日本人が好むビールの特徴ってなんなんでしょうか?

川本さん:日本の大手ビールメーカーが扱っている商品のほとんどが、「ラガー(下面発酵)」の「ピルスナー」っていう種類なんです。ビールらしい苦味と爽やかなのどごしが特徴で、ゴクゴク飲みやすい。

アメリカにはビール醸造所が9,700カ所以上※あって、パブやバーに行くとビールが10種類くらいはメニューにあるんです。日本にはそういう土壌がなくて、普段飲んでるビールがピルスナーだということすら知らない人が多い。ビールって150種類以上のスタイルがあるのに、日本だとサッポロかアサヒかって……メーカーで選ぶ感じじゃないですか。

※出典: Brewers Association(米国にあるクラフトビール醸造者協会)/世界一の国内ビール醸造所数を誇るアメリカでは、1978年に自家醸造を解禁してから、醸造所の数が2022年で9709カ所(クラフトビールのみで9552カ所)まで増えている。

──確かに……。ピルスナー以外のビールで代表的なものを教えてください。

川本さん:まず、ビールは発酵方法の違いで主に「ラガー(下面発酵)」と「エール(上面発酵)」に分かれます。一般的に売られているビールは大量生産するのに向いているラガーがほとんど。さらに、使う原材料や製造工程の違いによってさまざまな種類に分けられています。

「黒ビール」と呼ばれるものの中にも、イギリス発祥の「ポーター」、ドイツ発祥の「シュバルツ」などさまざまな種類があって、ギネスビールは、「ポーター」を改良したアイルランド発祥の「スタウト」。黒くなるまで焙煎した大麦を使っています。

ドイツの伝統的なビール「ヴァイツェン」や、ヒューガルデン・ホワイトで有名なベルギーの「ベルジャンホワイト」は、小麦を使う「白ビール」と呼ばれる種類。タンパク質や酵母で白く濁っているのが特徴です。

クラフトビールのスタンダードともいえる「ペールエール」は上面発酵ゆえのフルーティーな香りが特徴。「ペール」は「淡い」を意味する言葉で、当時は濃い色のビールが多かったエールビールと比べて淡い色だったことからそう呼ばれたらしい。

「IPA(アイピーエー)」は「インディア・ペールエール」の略で、原材料のホップを大量に使用するので、香りや苦味が強い。最近はドライホッピングという製法でホップの苦さを軽くした「ヘイジーIPA」が人気ですね。

──いやー、奥深い世界ですね……。

川本さん:そうなんですよ! だから、ギネスビールを広める前に「ピルスナー以外のビールを知ってもらう」ってことが重要なんじゃないかと思って、クラフトビールを提供するようになったんですが……いろんなビールを研究するうちに、気づいたら醸造所を構えてしまいました。ハマるととことんやってしまうタイプで(笑)

──一気にいくところまでいってますね。ビール愛が深すぎます!!

\ドヤ/
そもそもクラフトビールって?急増する国内クラフト・ブルワリー

──ちなみに、「クラフトビール」の定義とは……?

川本さん:大手企業が量産するビールと対比して「小規模な醸造所が造るビール」といわれているけど、日本では明確な定義がないんです。

アメリカだと「Brewers Association(ブルワーズ・アソシエーション)」って団体が定めた定義で、「ビール製造量が年間9.6億リットル未満」とか、「他者の醸造所の経営の所有・管理が25%以内」※などがあって、大手資本が入っていないインディペンデントなブルワリーであることは重要視されてると思います。

※25%未満がクラフト醸造業者ではない飲料アルコール業界のメンバーによって所有/管理されていること

──日本では、いつからクラフトビールが広まったんでしょうか?

川本さん:日本では、1994年の酒税法改正※によって「地ビール」のブームが起こって、町興し的な側面でビールが作られるようになったのが始まり。ただ、地ビールは旅行をした時に飲むだけで、1回飲んだら満足してしまう。すぐに飽きられて、日常的に飲むようなムーブメントにはならなかったんです。

※1994年4月に酒税法改正でビールの製造免許を取るのに必要な最低製造量が大幅に引き下げられた

──確かに、地ビールといわれるとその土地を訪れた時に飲む……というイメージが強いですね。

川本さん:でも、地ビールブームの時から本気で美味しいビールを作り続けていたメーカーが今も頑張っていて、クラフトビールブームを牽引しています。地ビール第1号として知られている新潟の「エチゴビール」とか、大阪では1997年に誕生した「箕面ビール」とか。「よなよなエール」で有名な長野のヤッホーブルーイング社は、もはやクラフト・ブルワリーの規模ではなく、ビール業界全体でも大手5社に次ぐ勢いです。

特別なビールではなくデイリーなビール造りを目指す大阪クラフトビールのパイオニア「箕面ビール」。大丸梅田店 和洋酒売場でも販売している、ペールエール、スタウト、おさるIPA、ヴァイツェン、ピルスナー、W-IPA(左から)。

ここ数年で国内のクラフト・ブルワリーは今700カ所くらいまで増えてるらしく、2021〜2022年では100カ所近く増えてます。ですが、アメリカの市場シェアと比べたらまだまだです。

※日本におけるクラフトビールの市場シェアは、ビール類全体の約1.5%とまだ発展途上。 アメリカにおけるクラフトビールの金額ベ​​ースのシェアは2022年のデータで24.6%(出典:Brewers Association

──国内のブルワリーがそんなに増えてるとは……! 

\ドヤ/
ほぼカレー?エビシュウマイ味?クラフトビールを盛り上げるのは俺や!という使命感

──日本のクラフトビール市場はこれからもっと盛り上がると思いますか?

川本さん:「盛り上げるのは俺や!」と思ってます(笑)。もっとおもしろくしたいんですよ。もっと気軽に飲んでもらいたいし、どんどん若手が参入できる業界であってほしい。

僕は頂点を取りにいくより、裾野を広げていろんな人がおもしろがって飲んでもらえるビールを造りたいんです。伝統や主流に縛られない、自由で新しいビールを造って、「変なビール造ってるな」ってところで興味を持ってもらえたら。それでいて美味しいっていうのが重要なんですが。

──例えば、どんなビールを造っているんでしょうか?

川本さん:最近造ったものだと、「KAPPA CAMP」というキュウリを使った「ゴーゼ」。「ゴーゼ」は塩を使うドイツ発祥の乳酸発酵ビールで、しょっぱくて酸っぱいのが特徴。これにキュウリを掛け合わせたら「キュウリの一本漬け」になるんちゃう? とイメージして造りました。

過去には、杏仁豆腐をビールで再現したり、エビシュウマイ味のビールを造ったり……。

──エビシュウマイ味のビール!?!?

川本さん:2018年の酒税法の改正で、ビールに使用できる原材料が増えたんです。フルーツやハーブ、さらにカツオや昆布も使えるようになって。それってビールに出汁(だし)入れられるってこと? と思ったんですけど、出汁ビールは他のメーカーもやってたんで、それとは違うことをしようとして中華出汁のエビシュウマイ味に挑戦することに。もはや法改正と関係なくなって、発泡酒扱いだったんですけど(笑)

──発想もすごいけど、味が想像できません……。これから挑戦したいビールはありますか?

川本さん:大阪のスパイス料理人として有名な堕天使かっきーさんとのコラボで、「ほぼカレー」のビールを開発予定です。カレー風味とかカレーに合うビールではなく、ちゃんとカレーとして成り立つ、ライスに合うビールを目指して、クラウドファンディングのCAMPFIREで支援募集中です(7月末まで)。おもしろいだけでなく、美味しいビールを造る自信があります。

【ほぼカレー】ライスのお供になってしまう、クラフトカレービールをつくりたい

堕天使かっきーさん(右)と、3種のカレービールを開発予定。

──その自信はどこから……?

川本さん:ちゃんと浮気してるところですかね(笑)。もちろんビールを一番愛してるんだけど、シャンパンもテキーラもジンもワインも日本酒も、なんでも飲む。ビールだけ飲んでたらビールの良さがわからないじゃないですか。価格の安い店から高い店までほぼ毎日飲みに行くし、舌は肥えてると思うんですよ。

自分たちが造ってるビールがクオリティーの高いものだと確信していて、クオリティーを保ちながらおもしろいことに挑戦してるんです。まあ、こんなことばっかりをやってるから全然もうからないんですけど。

──クラフトビールって「高い」ってイメージもあると思うんですが、もうからない世界なんですか?

川本さん:例えば、今販売してる『ハピハピサワー』は1杯1,000円(税込)。一般的なビールと比べたら「高い」って思うかもしれないけど、この価格でも割に合わないことをやってます。

大量のイチゴをピューレ状にして投入して、製造工程で乳酸発酵させてるんです。単純に原価が高いのと、乳酸発酵する工程でめっちゃ手間がかかってるんですよ。

正直、税金もめっちゃ高いし、大手企業が作ってる1リットルあたりの人件費と僕らの人件費は全然違いますからね。

\ドヤ/
「美味い」だけじゃなく「上手い」を楽しむ

──クラフトビールの魅力とは?

川本さん:とにかくおもしろい。「なにこれ? おもしろいから飲んでみよ」「こんなアイデアあったんや」って楽しみ方。「美味いな〜」だけじゃなくて「上手いな〜」って感動があるんです。

──今まで飲んだクラフトビールの中で感動したものを教えてください。

川本さん:ヤッホーブルーイングが2019年に出した、桜餅風のスタウト「SORRY SAKURA MOCHI STOUT」は美味いし上手かったですね〜。アメリカで流行っていた「デザートスタウト」を和菓子でやっちゃいましたって感じで、塩漬けした桜の風味がスタウトと合うんですよ。

桜の風味だけでなく、白玉粉とオーツ麦を使用してとろみを表現した口当たりが特徴。

「SORRY」シリーズは輸出専用ブランドとして作られていて、かつお節を使ったIPAも出してるんですが、やり方も上手い。

あとは、静岡のRePuBrewが作っていた、マルゲリータ味の「三島TOMATO PIZZA ALE」。原材料に「スモークモルト」を使っていて、トマトとバジルの清涼感に麦芽の燻製感が合わさって絶妙にピザっぽかったですね。

それぞれの誕生にストーリーがあって、定番商品と違って、そのときにしか飲めない一期一会の出合いだからこその楽しさがあるんです。

──クラフトビールに興味を持った方へメッセージをお願いします。

川本さん:ビールにそんなに種類があるって知らない人も多いはず。クラフトビールを3種類くらいで捉えて、一度IPAを飲んで「クラフトビール好きじゃない」みたいな感じで毛嫌いしちゃうパターンもあると思うんです。「まだまだいっぱいあるよ!」ってことを知ってほしいですね。

あと、「初心者お断り」みたいな敷居の高さを感じてる人も多いと思うんですけど、クラフトビールってそんな難しいもんじゃないんですよ。嗅いで香りがどうとか、いちいちテイスティングするんじゃなくて、ビールは「イェーイ!」って飲むものだと思ってます。「もっと気軽に自由に楽しんでくれ!」と思います。

\大阪駅周辺でクラフトビールが楽しめるお店/

BAK UMEKITA
〒530-0011 大阪府大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 北館 6F
電話:06-4256-6678
営業時間:11:00~23:30
定休日:年中無休

クラフトビアマーケット ルクア大阪店
〒530-8558 大阪府大阪市北区梅田3-1-3 ルクア大阪B2F(バルチカ内)
電話:06-6151-2534
営業時間:11:00~23:00
定休日:不定休
国内外のクラフトビール30種を600円から楽しめるビアレストラン。

大丸梅田店 和洋酒売場
〒530-8202 大阪市北区梅田3-1-1 B2F 
電話:06-6343-1231(代表)
営業時間:10:00〜20:00
定休日:年中無休(元日を除く) 
国内外から取り揃えたビール、ワイン、日本酒を販売。

この記事を書いた人

トミモトリエ

1976年東京生まれ、大阪在住。株式会社人間所属、人間編集部編集長。人間を編集する編集者であり、変を集める変集者。偏愛者を愛し、大阪に生息する超生命体を研究している。時代を蛇行する超生命体マガジン『ヘンとネン』で連載「超生命体の偏愛図鑑」を更新中。年間400食のカレーを食べるスパイス狂。