OSAKA STATION CITY GUIDE

do-ya?[ドーヤ?]

映画『仕掛人・藤枝梅安』主演・豊川悦司インタビュー

どや!

writer:華崎 陽子
photo:井原 完祐

「このまま梅安とお別れするのも寂しい気がします」池波正太郎生誕100年を記念し、新たな「仕掛人・藤枝梅安」が誕生!映画『仕掛人・藤枝梅安』主演・豊川悦司インタビュー

2020年のハリウッド映画『ミッドウェイ』では連合艦隊司令長官・山本五十六役で好評を博し、昨年公開された『キングダム2 遥かなる大地へ』での麃公役も話題を呼ぶなど、インパクトを残す演技と唯一無二の佇まいで観る者を魅了する俳優・豊川悦司。そんな豊川が、大阪ステーションシティシネマほか全国にて上映中の『仕掛人・藤枝梅安』で、主人公の藤枝梅安を演じている。

池波正太郎生誕100年を記念し、「鬼平犯科帳」に並ぶ3大シリーズのひとつ『仕掛人・藤枝梅安』を映画化した本作。江戸の町を舞台に、腕の良い鍼医者という表の顔と冷酷な仕掛人という裏の顔を持つ男・藤枝梅安と彼を取り巻く人々の姿を描く。片岡愛之助が梅安の相棒・彦次郎に扮するほか、菅野美穂や天海祐希ら豪華キャストが名を連ね、TVドラマ「桶狭間~織田信長 覇王の誕生~」を手がけた河毛俊作監督と脚本の大森寿美男がタッグを組んでいる。そんな本作の公開に合わせ、豊川悦司が作品について語った。


──池波先生の生誕100周年の作品で藤枝梅安役のお話があった時はどのように感じられましたか?

僕が小学生の頃に、緒形拳さんが「必殺仕掛人」で演じておられた藤枝梅安を見て、すごく好きだったことを覚えています。だからこそ、すごく迷いましたし悩みました。原作もベストセラーですし、緒形さんをはじめ素晴らしい俳優さんが演じてこられた役を、自分がやることによるメリットとデメリットについて考えました。

──豊川さんの中で梅安は憧れのヒーローのような存在だったんですね。

そうですね。これほど数多く映像化されていなければ、もっと簡単にやってみたいな、楽しそうな仕事だなと思ったかもしれません。繰り返しになりますが、緒形拳さんをはじめ、大好きな俳優さんが演じておられたので、そのまま僕の胸の中に仕舞っておいてもいいのではないかと。それでも、大好きな河毛俊作さんが監督されることと、令和の時代に新しく藤枝梅安という時代劇を創るコンセプトをプロデューサーから聞いて、やってみようかなと思うようになりました。

──なるほど。

実はその直前に、緒形拳さんの今までのお仕事を総括するように展示するイベントがあって。その時にトークイベントのゲストに呼んでいただいて、「愛していると言ってくれ」や「青い鳥」のTBSの貴島(誠一郎)プロデューサーと、梅安も含めて散々緒形さんの話をして。その1週間か10日後に、降ってわいたようにこの話をいただいたので、これはひょっとして緒形さんが「やれ」と仰っているのかな? と。

──それは運命的なものを感じますね。

その後、緒形さんの元マネージャーさんに「実はこういう話をいただいているのですが、どう思いますか?」と尋ねたら、「(豊川さんが梅安を)やったら絶対に喜ぶと思う」と言っていただいて。何か運命めいたものを感じましたね。

──運命と言えば、彦次郎を演じた片岡愛之助さんとは初共演とのことですが、唯一無二のバディ感がありました。梅安は彦次郎とのシーンでは唯一、穏やかな顔を見せていました。

愛之助さんとは馬が合いましたね。何よりも、監督やプロデューサーから彦次郎役について相談を受けた際に愛之助さんにオファーしてほしいと言ったのは僕なので。

──そうだったんですね!元々、愛之助さんと一緒にやってみたいと思ってらっしゃったのでしょうか?

そうですね。彦次郎をどういう俳優さんに演じてもらうかという話になって、僕は「歌舞伎の俳優さんがいい」と。日々、時代劇をやっている俳優さんで、その上で、出来るなら現代劇や映像にも精通している方がいいと。そうなると、その場にいる誰しもが愛之助さんしか思い浮かばなくて。

──愛之助さんのどんなところに魅力を感じられたのでしょうか?

愛之助さんはTVドラマで悪役をやっていても、チャーミングさがある。それが彦次郎というキャラクターに通じるように感じました。どんな苦境に立たされても、ピンチにさらされても、「よしわかった」と微笑みながら走り出すような彦次郎のイメージが愛之助さんとマッチしました。

──特に、おふたりが食事をしているシーンはとても好きなシーンでした。食べるところだけでなく、食事の準備からしっかりと映しているので、調理方法は違っても食材などは現代と同じものを使っていることが感じられて、今の時代と地続きであることを感じました。

それは『仕掛人・藤枝梅安』という映画の大事な要素のひとつでもあります。池波先生の原作でも、食は大事に描かれているので、この映画も原作通りきちんとやろうと。東京の和食の名店「分とく山」(わけとくやま)の総料理長である野﨑(洋光)さんに料理監修に入っていただき、野﨑さん直々に撮影所で作っていただきました。すると、何とも言えないような匂いが撮影所中に漂ってくるんです。それだけで池波先生の世界にどっぷり浸かることができました。

──全ての料理が、本当に美味しそうに見えました。

本当に美味しいです。それもひとつの演出だと思います。舞台は江戸時代なので現代のように飽食の時代ではありませんから、何でもかんでも好きなものが食べられたわけではない。そんな中でも、自分たちで作ったささやかだけどその日の大切なご飯を食べるという芝居が、自然と引き出されました。

──食べるシーンはすごく重要なものだったということですよね。

特に、この映画では食べることは生きようとする意志ですから。生と死の、生の部分はほぼ食べるということで表現されています。後はどうやって仕掛けるのかという話になってしまうので、その対比として重要なシーンでした。

──そんな食事のシーンとともに、一枚絵になるほどの美女で、男たちを虜にすると評判の料理屋の内儀“おみの”を演じた天海祐希さんは印象的でした。時代劇での天海さんとの共演はいかがでしたか?

今回で3回目の共演だと思います。やはり、あの方は天海祐希さんにしか出来ない芝居をする人で、ワンアンドオンリーの女優さんだと思います。彼女が演じると、その役が彼女そのものになってしまう稀有な女優さんです。今回もやりやすかったですね。彼女が“おみの”を演じてくれて本当に良かったです。

──そんなおふたりのシーンをはじめ、雰囲気たっぷりな音楽が物語をより盛り上げていたように感じました。特に、梅安が仕掛けをするシーンの音楽は印象的でした。

僕もすごく良かったと思いました。プロデューサーと監督が、誰にお願いするか相当考えてくださったと思います。川井(憲次)さんの名前をうかがった時は、そう来たか! と思いました。映像との融合を楽しみにしていましたが、すごくマッチしましたね。

──物語の世界観を広げてくれるような音楽だったと思います。

面白いものって、どこかミスマッチなものをマッチングさせるところがありますよね。それが成功した時にすごくインパクトのあるものになる。今回は、本当にうまくいったと思います。うまく言えませんが、ダサくない。

──すごくスタイリッシュな時代劇になっていました。

本来は時代劇もそういうものだったのに、だんだんと売れるものばかりを作るようになったからマンネリ化してきたんでしょうね。マンネリ化することによって、お客さんが離れていったのだと思います。

──本作は、そういう時代劇の型にはまっていないことも魅力のひとつだと思います。単純な勧善懲悪ではなく、謎解きの要素も入っていました。脚本を読まれた時はどのように感じられましたか?

梅安の原作は短編集なので、その中のいくつかのエピソードをうまく組み合わせて、ちょっと入り組んでいるようだけど、そこまでわかりにくくない、ちょうどいい頃合いの脚本になっているように感じました。梅安や彦次郎が真実を知ることによってストーリーが動いていくところがすごく面白いと感じました。そこが今までの時代劇とは違うところなのではないかと思います。

──この作品が映画であることも大きな意味があると思います。大きなスクリーンで観るに相応しい作品だと思います。

この前、遅ればせながらIMAX・3Dで『アバター』の最新作を観まして。その時に、梅安はIMAX・3Dでできるんじゃないかと思ったんです。針が手前に飛び出てきたりして。全然ありだなと、『アバター』そっちのけでずっと梅安のことを考えていました。時代劇には無限の可能性があると思うので、そういう考え方もできると思います。

──第二作まで作られていますが、まだまだ豊川さんの梅安を観たいと思っている方も多いと思います。豊川さんはまた梅安と彦次郎に会いたいと思ってらっしゃいますか?

ヒットしてまた次回作をというお話をいただけばやりたいと思いますが、体力的にできるのかとも思うのと同時に、また坊主になるのかと…。

──髪型の問題がありましたね。

坊主になると、かなり役が限定されてしまって、半年くらい仕事が限定されるので、少し悩みますが、このまま梅安とお別れするのも正直、寂しい気もします。

──最後にご出身地の大阪についてお聞かせください。豊川さんは、大阪を離れてだいぶ経つと思いますが、今でもご自身が大阪出身だなと感じることはありますか?

一番、自分が大阪出身だと感じるのは、大阪ではないところで大阪弁に出会った時ですね。耳が反応します。大阪を離れて何十年も経ちますが、近くで大阪弁を話されるとすぐにうつってしまいます。

──そんなに大阪弁って抜けないんですね。

抜けないですね(笑)。

Movie Data

『仕掛人・藤枝梅安』第一作

▼大阪ステーションシティシネマほか全国にて上映中


『仕掛人・藤枝梅安』第二作

▼4月7日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開

出演:豊川悦司  片岡愛之助  菅野美穂  小野了  高畑淳子  小林薫 
第一作ゲスト:早乙女太一  柳葉敏郎  天海祐希 
第二作ゲスト:一ノ瀬颯    椎名桔平  佐藤浩市
原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』(講談社文庫刊)
監督:河毛俊作 
脚本:大森寿美男
音楽:川井憲次
【公式サイト】

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

【Profile】
豊川悦司
とよかわ・えつし●大阪府出身。1990年、北野武監督の映画『3-4×10月』に出演し注目される。その後も、91年『12人の優しい日本人』、92年『きらきらひかる』、95年『Love Letter』、96年『八つ墓村』と映画に出演。ドラマでは92年~ 93年「NIGHT HEAD」、95年「愛していると言ってくれ」、97年「青い鳥」など主演ドラマが大ヒットし、人気、実力ともに日本を代表する俳優に。主な映画主演作に、00年『新・仁義なき戦い。』、07年『愛の流刑地』『サウスバウンド』『犯人に告ぐ』、10年『今度は愛妻家』『必死剣 鳥刺し』、11年『一枚のハガキ』、16年『後妻業の女』、19年『パラダイス・ネクスト』など。20年のハリウッド映画『ミッドウェイ』では連合艦隊司令長官・山本五十六を演じ好評を博した。22年には、『弟とアンドロイドと僕』『あちらにいる鬼』に出演し、『キングダム2 遥かなる大地へ』での麃公役も話題を呼んだ。23年1月には『そして僕は途方に暮れる』が公開された。