photo:河上 良
「僕らの仕事には今まで語られてこなかったことを伝える役割もあるんだと感じた」
終戦を知らずに2年間、木の上で生き抜いた日本兵の実話を基にした映画『木の上の軍隊』
堤真一とW主演を務めた山田裕貴インタビュー
『東京リベンジャーズ』シリーズや『ゴジラ-1.0』など話題作に出演し、激しいアクションから人間くさい複雑さを表現する繊細な演技で魅了する俳優・山田裕貴。そんな山田が堤真一とW主演を務める『木の上の軍隊』が、大阪ステーションシティシネマほか全国にて上映中。
沖縄県伊江島で、終戦を知らずに2年間ガジュマルの木の上で生き抜いた2人の日本兵の実話を基にした、井上ひさし原案の舞台作品を映画化した人間ドラマ。太平洋戦争末期、米軍の銃撃に追い詰められ木の上に身を潜めたふたりの兵士が、極限状態の中で援軍を待つ様を描く。堤真一と山田裕貴がW主演を務め、『ミラクルシティコザ』の平一紘が監督を務めている。
そんな本作の公開に合わせ、沖縄出身の新兵・安慶名(あげな)セイジュンを演じた山田が作品について語った。
──安慶名役として本作のオファーを受けた時は、どのように感じられましたか。
まずは、こんなことが本当にあったんだというのが最初で、ガジュマルの木の上で過ごしていたってどういうことなんだろうと思いました。きっと、今まで語られてこなかっただけでこういう話はたくさんあると思うんです。僕らの仕事は、エンタテインメントを皆さんに届けて感動を与えるのはもちろんですが、本当にあったことや今まで語られてこなかったことを伝えるという役割もあるんだと、この作品ですごく感じました。
──戦時中が舞台で実話を基にした作品は山田さんにとって初めてだったと思いますが、そういう作品に携わることはどのように感じてらっしゃいましたか。
時代で言うと、例えば『ゴジラ-1.0』も同じ時代なんですが、ちょっと違いすぎますし。
──同じ1946年から1947年の出来事なので、彼らがガジュマルにいた頃に…
僕は船に乗ってゴジラと戦っていましたね(笑)。全く別物ですが、いつかこういう作品に携わる日が来るであろうというのは漠然と思っていました。
──それがこの作品だったというのは、どのように受け止められたのでしょうか。
モデルになったおふたりは生き延びて、ご子息の方がいらっしゃるので、沖縄の先行公開でひ孫さんが『木の上の軍隊』を観に来てくださったんです。子どもながらの字で感想を残してくださって。モデルになった方の血の繋がりを感じて、観てもらえてよかったと思えることはなかなかないことなので感動しました。
──確かに、なかなかないことですね。
撮影現場にもご子息の方が来てくださったんですが、開口一番、「あなたがいたから私たちは生まれてるのよ」と言ってくださったんです。僕は父親ではないですが、モデルとなった佐次田さんを演じている僕に、そういう言葉をかけてくださって。この物語をしっかり伝えたいということも含めて、いろんな愛情を感じました。
──胸に響く言葉ですね。そういう繋がりの一端を担う重みを感じますね。
ご家族のエピソードを僕が伝えるんだという感覚になりました。

──安慶名は初めて戦争を体験するので、ある意味では、一番観客に近い役柄だったと思います。
そうですね。安慶名は戦争の時代を生きていますが、それまでは平和に暮らしていたのに、突然、自分が住んでる島に爆撃が降ってきたんですよね。その感覚は、今を生きる人と同じだと思います。たぶん、彼は飛行機を見るのも初めてだったと思うんです。飛行場で日本軍の飛行機は見たことがあっても、敵国の戦闘機を見るのは初めてだったと思います。
──だからこそ、安慶名は海が戦艦で埋まって真っ黒だったことに驚いたんですよね。
彼にとって初めての光景だったから驚愕したんです。きっと今の子たちも、同じようなことを体験したら、どうしていいかわからないですよね。
──安慶名を演じる上で、観客との繋がりというか、観客に近い感覚でいることは意識していましたか。
めちゃくちゃ意識しました。僕はそこを担ってると思ったので、戦争を知らない全ての人たちの側にいる人間でいようと。例えば、この時代の上官というのは、逆らったら撃ち殺されるぐらいの存在で、上官に対して言葉を発する一言目は、何て言っていいかわからない震えと、話していいのかどうかという逡巡から始まります。
──そうですね。
上官に対する接し方には気をつけながらも、沖縄の人の良さというか、明るく朗らかで、ちょっと抜けてるところがあるという、わかりやすいキャッチーな部分を安慶名のキャラクターに落とし込みました。
──上官を演じた堤真一さんとは今回は初共演で、ある意味、2人芝居と言ってもいいぐらい2人のシーンは多かったと思いますが、堤さんとの関係性はうまくいきましたか。
10年前に、いろんなご縁で堤さんのお宅にお邪魔させてもらったことがあって。それもあってなのか、堤さんがたくさんお話してくださって、自然と関係性ができていました。撮影の合間は他愛のない話をして、お芝居になったら、とにかくやってみようという感覚でした。

──なるほど。
矛盾していますが、僕らの仕事は嘘を本当に見せなきゃいけないお仕事なので。これはもちろん本当にあった出来事ですが、当時感じていた感情や行動を100%トレースすることは絶対に無理です。だから、僕らは想像しながらやるしかないんですよね。きっと堤さんも、やってみて考えていこうという感覚だったと思うので、そこもすごく楽しかったです。
──実際にガジュマルの木の上で撮影されたとお聞きしましたが、実際に木の上での撮影はいかがでしたか。
この作品で、めちゃくちゃその質問をされるんです。公園を借りて、本物のガジュマルを3本が1本に見えるように植樹して、ガジュマル以外にも植物をたくさん植えて、森みたいな場所を作ってくださったんです。あっという間にそこに馴染んだので、なんでそれを聞かれるんだろうと。
──それぐらい溶け込んだんですね。
「家はあそこです」という感覚になっていて、その質問をされる方が不思議だなと思うぐらい馴染みました。
──違和感がなかったんですね。
そうですね。違和感はなかったです。それぐらい木の上の居心地が良かったんです。僕たち2人にとって、あの場所が落ち着く場所になっていました。モデルになったおふたりも銃弾が飛び交う中で、ガジュマルの木の上が本当に安心できる場所だったと思うので、おふたりに少し近寄れたように感じました。
──山下との関係はもちろんですが、与那嶺と安慶名の関係性も本作にとって重要だったと思います。与那嶺とのシーンはどのように考えながら演じてらっしゃいましたか。
上官との関係性が大事なのは言うまでもありませんが、与那嶺との絆はものすごく大事で、僕も与那嶺とのシーンで好きなところがたくさんあります。与那嶺と安慶名の関係性は、皆さんにとって一番身近だと思うんです。上官は今の時代では当てはまる存在を見つけるのが難しいかもしれませんが、与那嶺と安慶名のように友達と考えると、今の時代の人も想像できると思うんです。
──そうですね。
2人ともそんなに裕福ではない家庭だったけど、助け合って生きていて。そんな中でもきっと2人は楽しく遊んでいたと思うので、そういうところは序盤でしっかり見えるように意識していました。それは、与那嶺役の津波(竜斗)君のおかげです。本読みで最初の数言を交わした瞬間から、これは仲良くなれるという感覚がありました。
──戦時中の空気感はどのように想像されたのでしょうか。
僕は、広島に住んでいたので原爆資料館に行ったこともありました。阪神淡路大震災の時は広島でも、ものすごく揺れて、僕らは落ち着いてるのに母は大慌てしていて。人間は大人になっても動揺してしまうんだと子どもの頃に感じました。愛知県に引っ越して、台風で道路が冠水しているなか、父が必死になって車を運転している姿も覚えています。戦争ではないですが、災害という異常事態に立ち会った時に、子どもは何もできないので、災害で人が死ぬことは本当に怖いと感じました。そういうことから目をそらさずに僕は生きてきこられたと思うので、この映画ではそういう恐怖もしっかり表現したいと思いました。

──山田さんがあるテレビ番組で、「沖縄で海入ったっけ? 役で入ってるから覚えてない」とおっしゃってたのが、すごく印象的でした。
あれは、かっこつけました。
──(笑)。
あまり記憶力がいい方ではないので、日々のことでいっぱいいっぱいになって、本当に忘れちゃうんです。
──なるほど。
海に入ったかどうか考えて、思い出せなくて。「役で入った」という感覚は本当ですが、「役で(海に)入ってたからわからなかったんだ」というのはかっこつけてます(笑)。覚えてなかったのは本当です。
──先ほど、『木の上の軍隊』が『ゴジラ-1.0』と同じ時代だというお話もありましたが、エンタテインメントの繋がりによって、観客の想像力の補完になることも映画の魅力のひとつだと思います。
想像してもらったり思いを馳せてもらうのは、どちらからでもいいんです。もし、幸せな国になってなかったら、『ゴジラ-1.0』なんて作れないですから。ゴジラは原子力の象徴なので、幸せな国になったから、ゴジラはエンタテインメントだと言えると思うんです。そういう作品も大事ですが、こういう本当にあったことを題材にした作品が広がってくれるのは僕としては嬉しいです。そう考えると、『ゴジラ-1.0』からであっても、この作品を観てみようかなと思ってもらえるのであれば何でもいいので。とにかく観てもらえたら嬉しいです。
──そうですね。
スタッフさんや制作の方々がどれぐらいこの作品を愛しているかをすごく感じるんです。例えば、この作品は沖縄でも舞台挨拶して、大阪にも来て。最近の作品では滅多にないことです。
──珍しいと思います。
この作品を観てもらいたいチームが堤さんと僕のスケジュールを抑えて。今日も分刻みのスケジュールを作ってくれて。僕も人間なので、そういう熱意を感じるから、この作品の魅力をより伝えたいと思いました。この映画は、僕だけじゃなくてチーム全員の伝えたいという思いが強いから、それを感じられるのも嬉しいです。チームの思いが報われるのは、たくさんの方に観てもらえることだと思うので、僕が他の作品で演じた役で知ってもらっても、僕のことを知らなくても、観に来てもらえたらすごく嬉しいです。

──山田さんのsnsで拝見しましたが、新宿ピカデリーに本作のガジュマルの木をイメージした木が飾られてるそうですね。
この映画の美術さんが作ったんです。
──なかなかないことですよね。
すごく力を入れてくださっていて、素晴らしいなと思ってます。
──沖縄では先行公開されてますが、監督が、他の作品に並んでると思ってたら『木の上の軍隊』だったと喜んでらっしゃる投稿も拝見しました。
今も沖縄だけ、『国宝』より入ってるらしいです。
──すごいですね。
本当に何が起こるかなんてわからないんですよね。沖縄の熱が全国に広がってくれたら嬉しいですし、この作品は本当にあった話なので、そういう作品をどんどん伝えていきたいという思いは、ものすごく強くなっています。
──大阪で思い出に残ってることや、印象に残っている場所や食べ物があれば教えていただけますでしょうか。
さっき、豚まんで有名なお店のお弁当を食べたんですが、すごく美味しくて。これからは豚まんじゃなくて、お弁当を買って帰ろうと思いました。

大阪ステーションシティシネマ支配人からのコメント
極限状態の二人の緊張感と心理描写が凄まじく、堤さん・山田さんの演技に魅入ってしまいます。
戦争の悲惨さと、その上に成り立っている現在の平和の尊さを考えさせられました。
勿論、当時と現在では状況も価値観も違いますが、生きる事、生き抜く事の大切さは変わらないのだと思います。
戦後80周年の節目に是非ご鑑賞頂き、友人や家族と色々と語り合って欲しい作品です。
大阪ステーションシティシネマで大ヒット上映中ですので、ぜひご来場ください。
Movie Data
『木の上の軍隊』
▼大阪ステーションシティシネマほか全国にて上映中




出演:堤真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西惇
主題歌:Anly「ニヌファブシ」
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
監督・脚本:平一紘
(C) 2025「木の上の軍隊」製作委員会

Profile
山田裕貴
やまだ・ゆうき●1990年9月18日、愛知県生まれ。2011年「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビュー。22年エランドール賞新人賞、24年には『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』、『キングダム 運命の炎』、『ゴジラ-1.0』、『BLUE GIANT』での演技が評価され、第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命10年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか、日本語吹き替え版キャストを務めた『Ultraman:Rising』(24)、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24)などがある。公開待機作に『ベートーヴェン捏造』(9月12日公開)、『爆弾』(10月31日公開)がある。
大阪ステーションシティシネマで『木の上の軍隊』を観た後は、こちらのカフェで映画談議に花を咲かせてみては?
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いっちゃん、新しいやつ