【正体不明な「アレ」の正体は?】設計担当者がJR大阪駅を直々にガイド!
どや!
この記事を書いた人
スズキナオ(ライター)
大阪在住のフリーライター。街歩き、飲食などのジャンルを中心に執筆を行う。酒場ライター・パリッコさんとの“酒ユニット”である「酒の穴」としても活動中。
JR大阪駅をよく歩く。私の住まいは大阪環状線の沿線にあり、どこへ行くにもまずは大阪駅に出るということが多い。東京から大阪に越してきて8年ほどが経ち、来たばかりのころに比べたらだいぶスイスイと大阪駅の構内を歩けるようになった。乗り換えもスムーズにできるようになったし、目的地によってどの改札を出るのがベストかが自然にわかるようになってきた。
そんな風に、だいぶ親しみを感じるようになってきたJR大阪駅なのだが、駅構内のデザインを建築的な視点で見たことはない。いつもぼーっと歩いているだけで、駅のディテールに目を留めたことはほとんどなかった。そんな私が今回、大阪駅の建築デザインに関わってこられた専門家に案内してもらいながら、駅の隅々を見て歩くことになった。
その結果、柱の一本一本や使用されている石材、床のデザインパターンに至るまで、それぞれに意味が込められていることを知った。JR大阪駅に対する解像度がグッと上がったような、それは貴重な体験だった。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その1
JR大阪駅における重要な場所の床は〇〇模様になっている!
今回、JR大阪駅構内を案内してくれるのは岩田尚樹建築研究所の代表を務める建築家・岩田尚樹さんである。岩田さんは、JR大阪駅のデザイン・設計を統括的に担当するマスターアーキテクトを永年にわたって務めた建築家・東孝光さんの教え子として建築を学び、東さんの仕事をサポートする形でJR大阪駅をともに作り上げたメンバーのひとり。JR大阪駅がどのような意図でデザインされているかについて隅々まで知り尽くしているのだ。
そんな岩田さんにJR大阪駅の特徴的な10のスポットについて解説してもらおう。ガイドは「御堂筋口」からスタート。
まずひとつめのポイントは、床のパターンについて。JR大阪駅構内の床は基本的に、600mmの白御影石と300mmの黒御影石が斜めに配置されたパターンが使われている。
岩田さん「駅の構内はほぼこのパターンになっています。この床のパターンさえ見つければそこがJR大阪駅であることがわかるわけです。同じことが天井にも言えまして、JR大阪駅構内であればどこを見てもこの同じ天井になっています。このようにパターンをシンプルにすることによって、利用される方がこの空間を認識しやすいようにしているんです」
一方で、構内の重要なエリアの床は、それを示すため「市松模様」のパターンを採用しているという。
岩田さん「御堂筋口はJR大阪駅でももっとも流動の多いエリアで、全乗降客の7割から8割がここを利用しています。その御堂筋口の改札前の通路など、重要なエリアには市松の模様がデザインされている。改札内の見通しのいいところにも、南北方向にこのパターンが敷かれています。これを絨毯のように敷くことで、そこがなんらかの大事なポイントであるということを示しているんです」
基本パターンがほぼ全域に採用されているからこそ、歩いていて別のパターンが現れた時に「さっきまでと違う場所だ」と認識できる。そのような、ほぼ無意識下への訴えかけも狙って床や天井はデザインされているのか……。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その2
ルクア入口前の天井の出っ張りを、駅員さんたちは「〇〇〇のお腹」と呼ぶ
御堂筋コンコースを歩き、ショッピングビル「ルクア」の前あたりにやってきた。岩田さんが指示した方を見ると、天井が妙に出っ張っている箇所が。
岩田さん「ここだけボコーッとボリュームがありますよね。手はギリギリ届かないかな。でもそれぐらい低くなっています。なぜかというと、こちらをご覧ください。これが工事をしている時の写真です。この上を北陸線へ向かうエスカレーターが通っているんです」
岩田さん「構造上、このようなボリュームがどうしても出てしまう。そこで、ここを通る方があまり圧迫感を感じないような工夫がしてあります。具体的には、ふわっとした曲線を使う。そして間接光を天井方向に当てて、ちょっと軽みのある浮遊感を演出しているんですね。この曲線のデザインから『くじらのお腹』という愛称がついています」
この「くじらのお腹」という愛称がいつごろついたのか、岩田さんははっきりとは記憶してないが、「言い出したのはもしかしたら、僕かもしれない」と、笑いながらおっしゃっていた。駅の改修から月日が経ち、残念ながら最近ではこの愛称が忘れられつつあるそうなので、今後ここを通る時は「これ、くじらのお腹って言うんだってー」とさりげなく広めていこうと心に決めた。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その3
中央コンコースの床には、巨大な〇〇が描かれている
続いてやってきたのはJR大阪駅の中央コンコースである。御堂筋コンコースに次いで乗降客の多いエリアで、ひっきりなしに人が行き交っている。この中央コンコースの床に「迷路」が描かれているのをごぞんじだろうか。
JR大阪駅にまつわる雑学としてはちょっと有名なものなので、知っている方も多いかもしれない。私自身、大阪に引っ越してきた当初、友人に「これ迷路なの知ってる?」と得意げに言われたものである。
しかし、なぜここに迷路があるのか、その理由まで知っている方は少ないのではないだろうか。何を隠そう、私もそのひとりである。岩田さんに聞いてみよう。
岩田さん「ここのデザインを迷路にしようと考えたのは建築家の東孝光先生でした。JR大阪駅の中心の格調高い中央コンコースに絨毯を敷くイメージで、その絨毯の上を歩いてもらおうと。その時に、白い御影石と対比させつつ、黒が基調になるようにしたかった」
岩田さん「そこで迷路という案が出たのですが、その発想がどこから来ているかというと、実はヨーロッパのカテドラル(教会)や大聖堂の床のデザインから。ヨーロッパでは、クラシックな建築の床に迷路のデザインが使われていることが多いんですよ。迷路を抜けて神のもとへ向かうという意味合いがあるからとか。そのような事例があったから、迷路というアイデアが出てきたわけです。もちろん、ほんの少しの遊び心というか『こんなところに迷路があったら楽しいよね?』っていう思いもあったはず。そしてこれが、若き日の僕が描いた原案です」
岩田さん「僕が描いた原案に沿って、平成3(1991)年にできたのがこの迷路なんです。デザインした時は、迷路として成り立つのはもちろん大事だけど、できるだけきれいに見えるようにと、美しいバランスを心がけました。でもね、これ実は、ほとんど描き直してないんですよ。スラスラと描いて一発で『あ、できた』って。神様が降りてきたみたいな(笑)」
ちなみにじっくりと迷路を楽しみたい方におすすめの時間帯は、JR大阪駅が開く午前4時40分ごろだとか。は、早い……。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その4
中央コンコースの柱に取り付けられた〇〇は、すべてデザインが異なる一点もの
岩田さんが描いた迷路のまわりには重厚な雰囲気と洗練されたスタイルの両面を感じさせる立派な柱が立ち並んでいる。
岩田さん「東先生はこの中央コンコースの柱をデザインする際に、柱の頭の部分に個性を持たせたいと考えました。また、この太い柱を少しでも細く見せるために真ん中にスリットを入れようと、そしてそのスリットの上部にネクタイをするように照明をつけましょうと、そういうことを考えたんです」
岩田さん「見ていくとわかると思うんですが、この照明、柱ごとにデザインが違うんですよ」
岩田さん「実はこの照明、二代目なんです。大阪ステーションビルの工事の時に、全部作り替えているんですよ。昔は全部が白熱灯だったんですけど、今はLEDに変わっています。うれしいのは、初代のものを取り外すことになっても、きちんと同じデザインで作り直されたということです」
岩田さん「照明もそうですし、JR大阪駅全体をこういう凝ったデザインにできたのは、平成3、4年という景気のいい時代に作られたことも大きいと思うんです。東先生は決して華美な建築を好む建築家ではないんですが、長く愛してもらえるものを良い素材で作りたいとは考えていた。そういう思いが継続してJR西日本に受け止めてもらえているのはすばらしいことだと思います」
柱に取り付けられた照明がどんなモチーフをもとにデザインされたものなのか、想像しながら一つひとつを見ていくのが楽しかった。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その5
中央コンコースの柱&売店のガラス部分にはそれぞれ「隠れ〇〇」が存在する
まだまだ中央コンコースのネタが続く。岩田さんによると、ここに来たら探してほしい「隠し要素」が2種類存在するのだとか。まずはひとつめ、「売店のガラス」に注目だ。中央コンコースには2箇所に「キオスク」などの売店ブースがある。それぞれの壁にはエッチング(彫刻のような表面加工)の入ったガラスが使われているのだが、ここをよく探すと見つかるものがあるという。
岩田さん「このガラスの柄にはさまざまな生きものが隠れているんです。ほら、ここには蝶がいますよね」
岩田さん「ポスターの下になって隠れてしまっているものもありそうですが、2か所合わせて全部で10の生きものがいて……あ、あそこには猫がいます」
岩田さん「もうひとつ探してもらいたいのが、柱のなかのアンモナイト。中央コンコースメイン通路に並ぶ2列の柱には『ローザ・ペルリーノ』というイタリア産の大理石が使用されているんですが、これはアンモナイトが含まれていることが多い石材なんですね。僕自身もあとになって改めて徹底的に探したことがあったんですよ。その時は2個、かなり完全体に近いものを見つけました。その2個は『ハッピーアンモナイト』と呼ばれています。この愛称も僕が考えたんだったかな……(笑)」
岩田さんの話を聴いて「ハッピーアンモナイト」を探し始めた取材班。発見できるまで思った以上に時間がかかってしまった。
岩田さん「(取材班がアンモナイトを発見したという知らせを聞いて)おお、これはきれいですね。きっと幸せになれますよ(笑)でね、こんな風に貴重な『ハッピーアンモナイト』を探して楽しんでいただいたあとに、実はオチがありまして……。大阪ステーションシティができる時に、中央コンコースとノースゲートビルディングが接続するところを新たに石材を貼った柱があるんです。これ、見てください」
岩田さん「むちゃくちゃあるやん!って(笑)この最北にある2本の柱だけ、ノースゲートビルディングと同じ時期に新たに追加されたんですが、当然当初と同じ石材で仕上げるように指示しました。完成した柱を見たらあらびっくり、この面だけ非常に数多くアンモナイトが含まれていました。この数はかなりすごいですよ」
岩田さんとともにアンモナイトが大量に見つかる柱を見上げる。この柱の近くを通れば、とんでもない量の「ハッピー」を浴びられるかもしれない。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その6
「今、大阪駅のどこ?」と聞かれたら、〇〇を見て判断すべし
大阪駅はとにかく広い。待ち合わせの電話で「今どこ?」と聞かれてキョロキョロしたことが一度はあるはず。自分が今、大阪駅のどこにいるのか。それは「柱」を見ればわかるという。JR大阪駅には大きく分けて御堂筋口、中央口、桜橋口の3つの出口が存在するが、岩田さんによれば、それぞれにデザインコンセプトが異なるのだそう。
岩田さん「先ほど見た御堂筋口はJR大阪駅でももっとも流動の多い場所。そのため『機能的』『清潔感』『クール』『明るさ』といったコンセプトに基づいてデザインされています。柱をできるだけすっきり見せられるように工夫したりしているんです。中央口は、文字通り一番のセンターに位置するということで、『格調高さ』と『クラシカル』がテーマになっています。そして桜橋口のデザインは『親しみやすさ』『あたたかさ』『懐かしさ』といったコンセプトに基づいているんです」
それでは順番に見ていこう。
岩田さん「それに対して、中央コンコースの柱は、地面に接しているところ、柱の胴体の部分、それから柱頭っていう三層構成が強調されている。ギリシャ建築にも通じるクラシカルなデザインです」
岩田さん「桜橋口の柱には石灰石の一種である『ライムストーン』という名前の、ベージュで味のある石材を採用しています。このように御堂筋口、中央口、桜橋口と柱や壁に使用する石材を別々にしているんです。天井と床のパターンは基本的には一緒ですが、柱と壁を見ることによって自分が今どの出口、どの改札へ向かっているかが、なんとなくわかるわけです」
今後、大阪駅を利用する時は「見て、この柱。ペルリーノだから、ここ行けば中央口だわ」という風に友人の前で思いっきり知識をひけらかしてみたい。早くそんなチャンスがこないだろうか。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その7
中央コンコースから大丸の入り口へ向かう途中のちょっとした階段は〇〇〇〇の名残りだった!
中央コンコースから「大丸」方面へ向かう途中に小さな階段があるのをごぞんじだろうか。段数にしてわずか7段。しかしこの階段には、作らずにはいられない理由がちゃんとあったのだという。
岩田さん「この資料は、大阪駅の地下に打たれている杭の状況をあらわしたものです」
岩田さん「『大丸』が建っているところは昔のJR大阪駅の駅ビルがあった場所なんですが、そのビルを建て替える時に『井筒杭』という、とても長い杭を打ったんです。長いから、地下約30mにある『天満層』というしっかりした地盤まで到達している。一方、大阪駅の中央コンコースを支えているのは『武智杭』という短めの杭。これは『梅田粘土層』を支持地盤にしています。ここがあとになって地盤沈下してしまった。それによって、地盤沈下が起きなかった『大丸』エリアとの高低差が生まれたんですね。その名残ともいえるのが、この階段なんですよ」
岩田さん「工業がさかんだった時代に、大阪では工業用水として地下水をどんどん汲み上げていました。そのため大阪市内のいたるところで地盤沈下が起きたんです。当然対策をしなくてはならない。そこで昭和40年代に、営業を続けながら、建物下の土を掘って潜って天満層まで達する杭を追加で立てていくという、とてつもない工事をしたそうです。それによってこの一帯の地盤沈下が収まったと」
まさか小さな階段が地盤沈下の証でもあったとは……。知らなかった歴史がどんどん見えてくる。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その8
ホームへ向かう階段脇の行き先表示は、〇〇でつくられたもの
ここで中央口から改札内へ。各線のホームへ向かう階段の脇に行き先を示す表示板がある。岩田さんはそこで足を止めた。
岩田さん「これ、見てください。木でできているの、わかりますか?」
岩田さん「文字部分は高槻の職人さんによる手彫りなんですよ。これが実際に作っている時の写真です」
岩田さん「これ、実は鉄板の上に薄い木を貼っているんですよ。駅舎空間では燃える素材っていうのは基本的に使えない。だけど、鉄板に薄い木を貼れば、それはほぼ鉄と同材という風に見なされるんです。たとえこの表面が燃えても火事にはつながらないですから」
岩田さん「すぐに傷むかなと、ちょっと心配はしていたんですが、30年近くこの状態でちゃんとキープしてもらっているのはありがたいですね。JR大阪駅には木をけっこう使っていて、中央コンコースの長い照明の部分にも木のラインを入れています。かつてはパンフレット台にも全面的に木が使われていましたね。現在はポスター部分がサイネージに変わり、パンフレット台も作り直されているようです」
鉄板の上に薄い板を貼ってまで木の風合いを出そうという、その細かなこだわりに圧倒される。「いつまでも残っていてくれよ」と、今もきれいに保たれている木の表示板を改めてじっくり眺めた。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その9
桜橋口にある謎の「光る柱」、その正体は〇〇だった
こうしてじっくり観察しながら桜橋口まで来ると、なるほど、御堂筋口、中央口とは雰囲気が違うのがはっきりとわかる。岩田さんの説明にあった柱や壁の石材もそうだし、何より桜橋口周辺のあちこちには歴史を感じるディテールが残っているのだ。
再び改札を出る。やってきたのは桜橋口近くにある謎の柱の前。
この柱、「光る柱時計」という名がついているらしい。ところどころがあやしく光っているが……。
岩田さん「この柱、じつは時計なんです。光り方を見ると、時刻がわかるようになっているんですよ。上の光が今が何時かを示していて、下のほうで何分かが、5分刻みでわかるようになっているんです」
なるほど。さっきの写真に映る柱は上が赤とオレンジの2色、下が赤とオレンジと黄の3色で光っている。だいたい2時15分(この時は午後の)を示しているというわけか。
少し引いて見るとわかるが「光る柱時計」が建つ一角はちょっと不思議なスペースになっている。ここには少し切ないストーリーがあるようで……。
岩田さん「ステーションシティには、開業にあわせて8つの広場がつくられました。『カリヨン広場』とか『天空の農園』とかですね。それよりあとにこの周辺のデザインが進んでいったんですけど、当時はここにもミニ広場を作ろうという話があったんです」
広場のなかで岩田さんたちのチームがデザインを任されたのが、唯一このミニ広場だった。素敵な広場を作ろうと、丹精込めてデザインを進めたという。
岩田さん「図面を描いて、設置する椅子のデザインもして、『広場No.9』と呼んで気合を入れて進めていたんですよ。ついに僕らがデザインした広場ができるぞとワクワクしてね(笑)。とはいってもやはりここも人が通れるようにした方がより安全だし利便性が高いということになって、結局、広場ではなくなったんです。ですが、その名残として、柱については何かおもしろいことをしましょうと、広場の時計としてデザインしていたものが残ったんですよ」
中央コンコースからの人並みと、桜橋口からの人並みがちょうど融合する「大阪駅の汽水域」。その真ん中に「光る柱時計」は立っている。チームの情熱が宿った柱を眺めて「いつかこのあたりで待ち合わせをしてみようか」と思った。
大阪駅建築の「じつは……」なポイント その10
祈祷室を上から見ると、そこには玉砂利で描かれた〇〇のマークが
たっぷりと岩田さんにガイドをしていただき、最後に訪れたのが南ゲート広場にある「祈祷室」の前だった。この祈祷室は2014年に開設されたもの。礼拝をしたい利用者のための空間で、申請すれば誰でも利用できるようになっている。
岩田さん「2階から祈祷室の屋根が見える位置にあるということで、そこに玉砂利が敷かれているんです。横に設置された階段を上って見てみましょうか」
岩田さん「これ、なんだかわかりますか?サウスゲートビルディングのマークなんです。僕も久しぶりに見たんですが、いいですよね。このひっそり感が(笑)これも、ほんの遊び心ですよね。気づいている人、いるのかな」
ここで今日のガイドは終了。最後に岩田さんに改めてJR大阪駅のことを語ってもらった。
岩田さん「JR大阪駅をこうやって見ていくと、東孝光という建築家が駅の全体像について徹底的に考え抜いて、大きな方針を示した上で、細かな部分については、全体のなかでの位置づけにもとづいておさえた上でデザインしているということがわかってきます。東先生が最初に手掛けたのは中央口だったんですが、そこをデザインする時からすでに『将来この部分とこの部分が、こういう論理でつながっていく』っていうことを見通してやっているんです」
岩田さんは今後、JR大阪駅の西側に新たに作られる新改札口とその周辺をデザインすることになっているという。岩田さんの師である東さんの意志を汲みながら自分なりのアイデアを盛り込むかたちで作られるそうで、「これは本当に自信作です!」とおっしゃっていた。
岩田さん「世の中の駅ってよく似ているんです。電車が通るから構造上は太い柱がいっぱい立つことになる。そこをどうデザインしていくか。僕は職業柄、いろいろな駅を建築家の視点で見るわけですけど、ダントツでJR大阪駅が一番だと思います。JR大阪駅に誇りがあるんです。関わらせてもらって本当にありがたいと思っています」
岩田さんの言葉を頭の中で繰り返しながら改めて大阪駅を歩いてみる。今まで意識すらしてこなかった床、天井、柱に込められた意味があることを知った上で歩くと、いつも利用しているJR大阪駅がまた違う空間に見えてくるから不思議だ。
桜橋口の「光る柱時計」の前を通ったのは、もうすぐ15時になろうかというタイミングだった。岩田さんが「毎時の0分になった時にだけ現れるパターンがあって、それが楽しいんですよ」と言っていたのを思い出し、待ってみることにした。
柱を眺めて立っている私の前を、たくさんの人が通り抜けていく。15時になったらしく、柱の光が動きはじめる。そのカラフルな点滅を眺め、「岩田さんにいろいろなことを教わって今日は楽しかったな」という思いを噛み締めたのだった。
いっちゃん、新しいやつ