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do-ya?[ドーヤ?]

映画『ラーゲリより愛を込めて』桐谷健太インタビュー

どや!

writer:華崎 陽子
photo:杉 映貴子

「これからの世代に幸せや平和を伝えていきたいと強く感じた」
極寒のシベリアで帰国を信じ仲間を励まし続けた男の実話を二宮和也主演で映画化
映画『ラーゲリより愛を込めて』で相沢光男を演じた桐谷健太インタビュー

映画『火花』をはじめ、映画やドラマ、舞台で活躍するだけでなく、CMで披露した歌をきっかけにNHK紅白歌合戦に出場するなど歌手としても存在感を放つ桐谷健太。そんな桐谷が、12月9日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開される『ラーゲリより愛を込めて』で、メインキャストのひとり、相沢光男を演じている。

第2次世界大戦後、シベリアの強制収容所に送られた日本人たちが絶望する中で、帰国(ダモイ)の希望を持ち続け仲間を励まし続けた山本幡男の半生を描く『ラーゲリより愛を込めて』。二宮和也が山本幡男に扮し、山本とともに極寒のシベリアの収容所で過ごした抑留者仲間を松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕らが演じ、『糸』や『護られなかった者たちへ』の瀬々敬久が監督を務めている。そんな本作の公開に先立ち、昔ながらの帝国軍人として誇りを持ち続け、人間らしく生きようとする山本に厳しくあたる相沢光男を演じた桐谷健太が作品について語った。


──まずは、相沢光男役のオファーを受け、台本を読んだ時の印象をお聞かせください。

相沢という人物は劇中、ものすごく変化していきます。戦争という波にのまれて、軍曹になって。
シベリアでも当初は山本たちに対しても高圧的な態度で接していました。そこから変化して、本来の人間性が見えてくる。どんどん時間が経過するに従って変化していく役柄にやりがいを感じました。

──最初の頃の相沢は確かに高圧的でした。でも、後半は彼自身も戦争が終わってどう振る舞っていいのか戸惑っていたのではないかと感じました。相沢を演じる上で気をつけたことなどはありましたか?

クランクイン前は資料や映像を見て準備をしていましたが、撮影の時は感覚的に演じていました。というのも、相沢のことを考えすぎて絶望感を覚えてしまって。

──相沢の生き様を考えてということでしょうか?

もし自分がそういう境遇だったらと想像したら、“闇”を感じて、このままだと芝居ができなくなってしまうと。戦争映画を作ることや、こういう役を演じる意義は感じていますが、当事者の思いは想像を絶するものだったと感じる中で、自分がそれを演じていいのだろうか? と思うようになっていきました。

──シベリアの収容所での生活について想像を膨らませば膨らませるほど辛くなるのは理解できます。

でも、いつしか考え方が変わって、子どもたちやこれからの世代に「やっぱり幸せな方がいいよね、平和な方がいいよね」と伝えていきたいと思うようになりました。それがたくさんの人に伝わって意識するようになれば、どんどん戦争も減っていくのではないかと。本作で描かれていることは実際にあった話です。でも、それを映画にするということは、ひとつのエンタテインメントであって、伝えたいテーマがあります。その中での彼らの生き方を、子どもたちやこれからの世代に伝えていきたいと思いました。

──瀬々監督の現場はいかがでしたか?

作品への向かい方がとても真摯で、現場では誰よりも動いてらっしゃいました。雪の中、まつ毛にも雪がついているような状態で。そういう監督の背中や姿が強烈に印象に残っています。すごくいい監督だな、と。だから皆、ついていこうとしていたのだと思います。

──本作は、二宮和也さん、松坂桃李さんなど大河ドラマかと思うぐらいの豪華キャストが揃っています。二宮さんとの共演はいかがでしたか?

ニノとは10年以上前に連ドラで少し一緒になったことがあったぐらいでしたが、ラーゲリの撮影が終わった後、今年の4月クールのドラマも同じスタジオで撮っていたので、顔を合わせる機会もあり、とにかくよく会う印象です(笑)。10年前に比べるとすごく器が大きくなったと感じました。

──松坂さんとはいかがでしたか?

桃李くんは、物静かで優しくて。現場では、バラックみたいなところにそれぞれがひとりで自分の世界に入っているような感じの時間が多かったのですが、ちょっとした待ち時間は皆で話して、身体を温めていました。桃李くんと共演したシーンでは、すごく濃密な時間を共に過ごしました。

──様々な感情を抱えながら、それでも軍人としての誇りを持ち続ける相沢光男という役を演じる上で苦労はありましたか?

実際の人たちのことを思えば何の苦労もなかったです。でも、彼らを表現したい、演じたいと思って飛び込んではみたものの、想像だけでも恐怖に慄きました。そしてなんとか、その中から光を見つけられたと感じています。それは、もしかしたら実際の人たちと一瞬でも重なる部分があったのかもしれないと思いました。そこに居た人たちもきっと、絶望と希望を何回も繰り返して経験していたと思うんです。

──彼らのシベリアでの生活を想像して恐怖に慄いたと。

言葉で言うのは簡単ですが、本当に怖かったです。現場に居るうちに想像がだんだんリアルになってきて。あのバラックの中で、皆がパンを黙々とちびちび食べている姿を見た時に、本当にそこに居る感覚になって。その時、とても恐怖を感じました。

──そんな風に恐怖を感じながら桐谷さんが演じていたからこそ、観る人にはきっとリアリティを伴って心に訴えかける物語になっていると思います。

そう思っていただけると嬉しいです。

──最後に、桐谷さんは大阪府出身ですが、大阪での一番の思い出の場所を教えていただけますでしょうか。

思い出の場所は、淀川の河川敷ですね。友だちと何かあれば淀川に集まってだべったり、魚を釣ろうとしたりしていました。実家から歩いていけるので、今でも大阪に帰ると必ず行ってしまいます。

──大阪で今やりたいことや食べたいものは何でしょうか?

やりたいことは…そうですね、友だちと会いたいですね。食べたいものは…やっぱりオカンの作ってくれた飯ですね(笑)。この前1日だけ大阪に帰ることができたので、地元の居酒屋さんに両親と行って、その後、3人で昔住んでいた家の近くの路地を歩きながら、昔と変わっていないところを見つけて、テンションが上がっていました(笑)。

Movie Data

『ラーゲリより愛を込めて』

▼12月9日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開

出演:二宮和也、北川景子
松坂桃李、中島健人、寺尾聰、桐谷健太、安田顕 ほか

主題歌:Mrs. GREEN APPLE『Soranji』(ユニバーサルミュージック / EMI Records)
原作:『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』辺見じゅん/文春文庫刊
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫


(C) 2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (C)1989 清水香子

【Profile】
桐谷健太
きりたに・けんた●1980年2月4日生まれ、大阪府出身。2002年TVドラマ『九龍で会いましょう』でデビュー。主な出演作として、映画『アウトレイジビヨンド』(2012)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016)、『火花』(2017)、TVドラマ『ケイジとケンジ~所轄と地検の24時~』『俺の家の話』『インビジブル』がある。
2013年より歌手としても活動を開始。auのCMソング「海の声」で第58回日本レコード大賞優秀作品賞受賞及び第67回NHK紅白歌合戦初出場を果たした。
今後、2023年1月6日(金)公開の映画『嘘八百なにわ夢の陣』主題歌『夢のまた夢』を12月下旬配信予定。関西テレビ2023年1月期連続ドラマ『インフォーマ』で主演を務める。