OSAKA STATION CITY GUIDE

do-ya?[ドーヤ?]

稲田俊輔さんの大阪駅 異国料理紀行。今、気になる異国料理店のメニューを読み解く。

どや?

大阪万博真っ只中、いつも以上に海外の人が行き交い国際色豊かな大阪駅。そんな大阪駅で“食の世界旅行”してみませんか?
南インド料理専門店・エリックサウスの総料理長であり、博覧強記の料理人として知られる稲田俊輔さんが、大阪ステーションシティで今気になる、異国料理のお店へ。
タイ、フレンチ、トルコ・ギリシア、スペイン……4つの異国料理店で出される「メニュー表」から店の特徴を読み解きながら、どういう風に注文を組み立てるか? それぞれのお店で稲田さん流・最強デッキを完成いただきました。
食の世界がグッと広がること間違いなし。稲田さんが綴る、大阪駅の異国料理レポートです。

photo:牛久保賢二
write:稲田俊輔

記事を書いた人

稲田俊輔さん

料理人・飲食店プロデューサー。南インド料理専門店・エリックサウスの総料理長。南インド料理ブームの火付け役であり、近年はレシピ本をはじめ、旺盛な執筆活動で知られている。著者に『食いしん坊のお悩み相談』『おいしいものでできている』『ミニマル料理』『異国の味』など。

X:https://x.com/inadashunsuke

【タイ】クンテープ(ルクア大阪 B2F)

最初に訪れたのはルクア大阪B2F バルチカエリアにある、タイ国政府認定レストラン「クンテープ」

極めてオーセンティックなタイ料理店ですが、同時にどこか懐かしさのようなものも感じます。そう、この雰囲気は1990年代、タイ料理が日本に上陸して浸透し始めたあの時代の空気感!

近年ではタイ料理はコンビニやファミレスにも登場するくらいポピュラーになり、それと同時に日本人の味覚に合わせて食べやすくアレンジされてきましたが、ここにあるのは、そうなる前のタイ料理。いわゆる「ガチ」です。かつて慣れない味に目を白黒させながらもいつの間にかどハマりしていた、僕にとっては思い出の味でもあります。

グリーンカレーやガパオライスといった比較的馴染みのあるタイ料理に並んで、現地感あふれるメニューが

今回は、日本でもっと知られてもいいのにと個人的に思っている料理を中心にオーダーしました。そう、まさに「あの頃」、ヤムウンセン、トムヤムクン、ゲーンキョワーンといった定番中の定番にはすっかり慣れ、もっと深掘りしたいと興味津々で目立たないメニューも隅から隅までオーダーしてみた、あの楽しさがやっぱり蘇ります。

選んだのがこちら。(右から時計回りに)イサーンソーセージとサイウアの盛合せ、海老の春雨蒸し、カリカリ豚のガパオ炒め

1品目:イサーンソーセージとサイウアの盛合せ

右側がサイウア、左側がサイクロック・イサーン。きゅうりと生姜を添えて

内容は2種類。タイ北部の伝統的な腸詰め料理である「サイウア」と、イサーン地方の名物「サイクロック・イサーン」です。

サイウアはいかにもタイ料理的イメージそのままの、香り高くスパイシーな味わい。サイクロック・イサーンは餅米を加えて発酵させた、どこか「なれ鮨」にも通じる鄙びた味わい。ある意味真逆の2種類ですが、タイ料理の奥深さを思い知らせてくれること請け合いです。

店員さんに声をかけたら出してもらえる、卓上の味変ソースセットも忘れずに

2品目:エビの春雨蒸し

タイではクンオップウンセンと呼ばれます。辛さは無く、レモングラスやカーなどの爽やか系ハーブと、濃厚で甘味のあるタイ醤油の味わいが主軸の土鍋蒸し。

僕はかつてタイ料理の黎明期に、尻込みする友人を半ば無理やり誘った時にオーダーする定番がこちらでした。誰もが絶賛でした。だから断言します。これは日本人の心を100%瞬時に捉えます。

3品目:カリカリ豚のガパオ

ガパオは本来「ホーリーバジル」という独特なハーブそのものを指し、日本で一般的なバジルとは風味が全く異なります。しかし日本で「ガパオ」と称されるひき肉甘辛炒め料理は、その肝心のガパオが使われていないこともしばしば。

しかし安心してください。この店では、沖縄などから空輸される本物の新鮮ガパオがふんだんに使われています。ヤミツキとはこのことかと思わせる、フレッシュかつしたたかなまでの香りが、心ゆくまで楽しめます。

日本人はタイ料理のことを、よく知っているようで案外知らないような気がします。
だから、タイ料理専門店に行ったら知らないものを片っ端から頼んでみる、というのはとてもおすすめの楽しみ方。何を頼んでも何かしら予想を上回ってくるおいしさのこの店は、そんな楽しみ方に最適です。

クンテープ
住所:大阪市北区梅田3丁目1-3  ルクア大阪 B2F
営業時間:11:00~23:00

【フレンチ】赤白ブラッスリー(KITTE大阪 4F)

続いてやってきたのは、KITTE大阪4Fのフレンチレストラン「赤白ブラッスリー」

イタリアンに比べると、日常的なシーンにはなかなか浸透しにくいフレンチ。「なんだか難しそう」「高そう」「おしゃれすぎて気が引ける」など、ある種の誤解とも言える先入観が浸透の妨げになっている気がします。しかしこちらは、そんな杞憂を一瞬で吹き飛ばすかのような革命的なお店です。

しかも単にリーズナブルな価格でフランス料理とワインを提供するというだけではありません。カジュアルなビストロ料理だけでなく、モダンフレンチ的要素を取り込んだ瀟洒なメニューもまた充実しており、フレンチ好きにとってもこれから好きになりたい人にとってもワクワクが止まらないはず。

「コの字カウンター」にお客さんが肩を寄せ合う、フレンチレストランとは思えないカジュアルさ

フレンチとしては異例とも言える「コの字カウンター」は、まるで牛丼屋さんで牛皿とビールをキメるように、あるいは大衆酒場で湯豆腐なんぞつつきながら徳利を傾けるように、自然体でワインを楽しめる、とても素敵な空気感を醸し出しています。

どのメニューもそのリーズナブルさに驚きます

この日選んだのは以下の3品。すみません、特にテーマはありません。単にその時僕が食べたかったものを素直に選んだだけです。

(上から時計回りに)トントンのトンソクくるくるカルパッチョ 黒トリュフの削りかけ(フランス産)、サラダ菜を使ったポタージュスープに半熟卵とベーコンのやさしい味を、牛タンとフォアグラのロッシーニスタイル ラズベリーソース

1品目:トントンのトンソクくるくるカルパッチョ 黒トリュフの削りかけ(フランス産)

提供後に目の前で黒トリュフを削ってくれます

僕はフレンチで豚足のメニューがあると必ずと言っていいほど注文してしまいます。そして、「豚足メニューのあるフレンチに外れ無し」というのも持論です。

こちらは豚足ならではの豊富なゼラチン質のコリコリねっとり感を、ごくシンプルなビネガーのソースでまとめた、始まりの一品に実にふさわしい清廉な味わいの一品でした。

2品目:サラダ菜を使ったポタージュスープに半熟卵とベーコンのやさしい味を

じゃがいもと玉ねぎがベースと思われるスタンダードなポタージュですが、そこにサラダ菜の柔らかな香りと微かなほろ苦さが加わった小粋な味わい。
ポーチドエッグも加わって、たったそれだけのことなのに、単にスープではなく温前菜としても楽しめるのがなんとも嬉しいところ。

3品目:牛タンとフォアグラのロッシーニスタイル ラズベリーソース

下世話な話で申し訳ないのですが、1,850円(税別・取材時)とこの店では最高額の一皿。しかし出てきた実物を見て、ひっくり返りそうになりました。これ、お店の儲けはほとんど無いのでは……。

だからこれをここでお勧めして良いものやら少し逡巡もしてしまうのですが、牛タンの赤ワイン煮込みとフォアグラ、そしてベリー、という、ありそうで案外無い組み合わせの妙も含め、この一皿のためだけにここを訪れてもよいくらいの逸品です。

この3品に限らず、この店のメニュー名はどれも長いです。長いメニュー名は、言うなればフレンチの十八番(おはこ)です。ナントカ産ナントカのナントカ仕立てナントカのナントカを添えて、みたいな。

しかしこちらのメニュー名の長さは、そういうのともまた少し違います。一般的に長いメニュー名は、そこに込められた情熱を反映する反面、同時にどこか近寄りがたさや、かえってわかりにくさを纏ってしまいがちなものですが、こちらはとにかく「その料理のことを全ての人に知ってほしい」という目的に向かってひたすら真っ直ぐです。こんなところにもお店の思いが現れていますね。

赤白 ブラッスリー
住所:大阪市北区梅田3丁目2−2 KITTE大阪 4F
営業時間:11:00-23:00、最終入店22:30(L.O.フード 22:00、ドリンク 22:30)

【多国籍】absinthe org.(アブサン・オーグ)Salad & Grill(KITTE大阪 B1F)

続いては、同じくKITTE大阪 B1Fにある「absinthe org.(アブサン・オーグ)Salad & Grill」

このお店って何のお店?そう聞かれたら、「多国籍料理のオールデイダイニング」と答えるしかないでしょう。この場合、多国籍料理というのは「無国籍料理」とは違う、ということはとても大事。アイデア勝負の創作料理ではなく、幅広く各国の本場の味を集めた、あくまでオーセンティックなレストランということです。

モーニング、ランチ、ディナーと少しずつ違う顔を見せるこのお店は、どこか国際空港にあるレストランのようでもあります。海外旅行をした時の空港での何とも言えない高揚感は、街中に繰り出すのともまた違ったワクワク感があるものですが、それをいつでも楽しめるなんて、何だかすごくトクをしたような気分になります。

朝8時から通しで営業されており、モーニングセットやランチセットはもちろん、アラカルトメニューも豊富なため、いつでもふらっと立ち寄りやすい

地中海一円の料理を取り揃えたこの店ですが、特に注目したいのはその東側、トルコやギリシアなどアラブ圏の料理。そのエキゾチックかつ滋味深い味わいは、日常ではなかなか出会えないタイプのおいしさです。

(上から時計回りに)ホムスとファラフェルの盛り合わせ、シャクシュカ、ベジケバブ

1品目:ホムスとファラフェルの盛り合わせ

ファラフェルは付属のピタパンに挟んで、ヨーグルトソースをかけていただく

ホムスはフムスとも言われる、ひよこ豆とゴマ、オリーブオイルのペースト。ファラフェルは、潰したひよこ豆にハーブを練り込んだものを揚げた緑色のコロッケです。

どちらも、植物性の素材だけとは思えない、しっかりと満足感のある味わい。豆腐や揚げなどの大豆製食品をこよなく愛する日本人の感覚と、どこか通じるものがありつつ、クミンなどのスパイスが醸し出すエキゾチックな魅力がたまりません。

2品目:シャクシュカ

玉ねぎやピーマンなどの甘酸っぱいトマト煮込みに、半熟卵が添えられます。これはもう、フランスのラタトゥイユやイタリアのカポナータなどと同じ系譜の、世界中で普遍的なおいしさと言えますね。

日本の定番「ナポリタン」ともどこか通じる、ホッとするおいしさです。普段馴染みの無いギリシア料理ですが、人類普遍のおいしさにはどこか通じるものがあるという、ほっこりとしたロマンを感じさせてくれます。

3品目:ベジケバブ

ケバブは中東やインドでポピュラーな、スパイシーな肉料理。この日実は、最初は牛挽肉を使った「ケバブビーフ」が目当てだったのですが、せっかくなら他でなかなか出会えないものにしてみようと、あえて肉を使わずに豆や香味野菜で「肉っぽさ」を演出したこちらにしてみました。

日本ではあまり馴染みのない、いわゆる「ヴィーガンフード」なのですが、こういうものにこそ「異国感」が鮮やかに表れるものです。

海外旅行の最終日、帰国便のチェックイン時間ギリギリまで空港レストランで粘ったことのある筋金入りの食いしん坊さんは、ぜひこの店であの時のキュンとくる思い出を追体験してみてください。日本にいるとは思えない味の数々が、鮮やかにそれを蘇らせてくれるはずです。

absinthe org. Salad & Grill
住所:大阪市北区梅田3丁目2−2 KITTE大阪 B1F
営業時間:8:00-23:00、最終入店22:00(L.O.22:00)

【スペイン】XIRINGUITO Escribà(チリンギート エスクリバ)(バルチカ03 3F)

最後にやってきたのは、バルチカ03の3Fにあるスペイン料理店「XIRINGUITO Escribà(チリンギート エスクリバ)」

魚介を中心に素材の味を生かしつつパンチの効いた味わいが特徴のスペイン料理は、近年ずいぶん定着しつつありますが、全国的に見ても大阪では特に人気の外国料理ジャンルというイメージがあります。

一昔前、「バルブーム」と言われていた時代は、(こう言ってはなんですが)単にブームに乗った「なんちゃってスペイン料理」も少なくなかったような記憶がありますが、結局今定着しているのは「本物」ばかりで、こちらのお店ももちろんそんな一軒。

今回はあくまで料理に関する記事なのですが、このお店に関しては内装にも触れないわけにはいきません。大理石の豪華なテーブルが最大のポイントになっているのですが、それを取り巻くカラーリングや調度の数々、モダンかついかにもヨーロッパ的なデザインセンスが好きな方にはたまらないと思います。

看板メニューのパエリアとフィデウアは、全部で5種 
※メニュー内容は取材時のものです。左側のセットメニューは、2025年8月より内容と価格が変更されています。

そんなおしゃれな空間なのに……いや,そういう空間だからこそ,料理はあえてワンパク極まりない方向で選んでみました。

(右上から時計回りに)“エアバッグ” スペイン産ハモンセラーノとクリスピーブレッド、フィデウア エスクリバ、“パタータスブラバス” フライドポテト ブラバスとアイオリソース添え

1品目:“エアバッグ” スペイン産ハモンセラーノとクリスピーブレッド

車のエアバッグのような、ぷっくりと膨らんだ中空のクラッカーに、生ハムがどっさり乗っています。それを小さな木槌で叩き割るという奇抜なプレゼンテーションが、宴の始まりに実にふさわしい、陽気なアペタイザー。

スペイン料理なら凝縮感溢れる生ハムであるハモンセラーノは絶対に欠かせませんが、ねっとり濃厚なハモンセラーノとクリスピーなクラッカーの破片の相性は、否が応でもワインが進みます。ぜひ、スパークリングワインのカヴァと共に。

2品目:“パタータスブラバス” フライドポテト ブラバスとアイオリソース添え

フライドポテトにスパイシーなトマトソースをかけた料理です。こちらの店ではそこに更に、にんにくマヨネーズソースのアイヨリ(アイオリ)も加わります。

こうやって書いただけだとありがちなジャンクフードのようですが、じゃがいも自体の素材選びも、ソースの味わいも、そんな予想を軽く超えてきます。特にトマトソースが知っているトマトソースと全く違うのは、おそらく燻製パプリカがふんだんに使われているからでしょう。

3品目:フィデウア エスクリバ

スペイン料理なら、やはり最後はパエリア。この店でも何種類かが用意されていますが、メインは、店名を冠し海老やムール貝などの定番の海鮮がふんだんに使われた「エスクリバ」。

そして何より嬉しいのは、パエリアの米を、パスタを細かく折った「フィデウア」にも変更できること。今日はこれが一番のお目当てでした。味は、その形状も相まって、まるで「そばめし」のようです。
もちろんウスターソースなんて使われていないのですが、香味野菜とハーブの複雑な風味が、なぜかそれを想起させるんですね。「初めてなのに懐かしいおいしさ」の頂点のひとつがこちらだと思います。

鍋底にはりついたフィデウアをスプーンでこそげとる

料理はどれも、シンプルに素材感を生かしたスペイン料理らしさ満点のものばかりですが、そこにいかにもレストラン的な繊細で緻密な計算が施されているのが、この店の最大の魅力です。

メニューも内装もおしゃれかつカジュアルで、いわゆる「女子会にぴったり」なんて言われるタイプのお店ですが、そういう場でもしっかり本場の味を楽しみたい女子は、ぜひこちらにみんなを誘導してください。真剣に味わってしまうあまり会話が疎かになりかねませんが、そんな集いもまたいいものではありませんか!

XIRINGUITO Escribà
住所:大阪市北区梅田3丁目2−123 イノゲート大阪内 バルチカ03 3F
営業時間:11:00-23:00

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最後に、今回異国料理巡りをしてくださった稲田さんが手がける南インド料理専門店がこちら!
うめきた広場からすぐなので、今回ご紹介したお店とあわせて巡ってみては。

ERICK SOUTH エリックサウス グランフロント大阪店
住所:大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪 南館 B1F
営業時間:11:00~22:00(L.O.21:00)

大阪駅の駅ビル内で楽しめる “食の世界旅行” に出かけてみてはいかがでしょうか。

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