500名規模のエンジニア集団が誕生?Hondaがグラングリーン大阪に構えた4600㎡の“冒険する”開発拠点【うめきた新オフィス潜入】
どうやろ
write:渡辺あや
photo:北川暁
本田技研工業株式会社(以下、Honda)といえば、東京都港区に本社を置く誰もが知る自動車メーカーです。二輪車、四輪車だけでなく、パワープロダクツや航空機など多岐にわたるモビリティ製品の開発・製造・販売をしています。
1949年に発売を開始した二輪車は、2025年に世界生産累計5億台を達成。四輪車事業でもグローバルで確固たるポジションを確立し、製品の性能や技術力に揺るぎない定評があります。

そんなHondaは現在、関西地区での「ソフトウェアエンジニア」の採用を強化中です。2023年秋、それまで関東を中心に展開してきたソフトウェア開発部門を「WeWork LINKS UMEDA」に拡大。そして、2025年春、その開発拠点を発展させ「グラングリーン大阪南館」の27階に新たな拠点を開設しました。今年6月には、関西のソフトウェア人材を500人に増やすという計画を発表しています。
その言葉通り、「Honda Software Studio Osaka」の床面積はなんと約4600平方メートル!最先端かつ広々としたオフィスでは、ソフトエンジニアたちが日々、新しい技術の開発に励んでいます。

なぜ、Hondaは関西でソフトウェア人材を集めているのでしょうか。さらに、その舞台にグラングリーン大阪を選んだ理由とは?
今回は、同社のチーフエンジニア兼大阪拠点長 鈴木宏章さんと、アシスタントチーフエンジニア 津留雄さんにオフィスを案内いただき、お話を聞きました。
テーマは「挑戦」と「冒険」! 感性を刺激するこだわりのスペース

「Honda Software Studio Osaka」のコンセプトは「コミュニケーションファースト」。入口ゲートを通ると、木の温もりを感じる開放的なエントランスが広がります。


エントランス内には、複数の会議室を完備。それぞれコンセプトが異なるといいます。


鈴木:オフィス全体で「コミュニケーションの活性」を意識しています。埼玉県にあるHondaのデザインセンターのメンバーがデザインしたこだわりの会議室は、椅子や内装と部屋ごとに空間の雰囲気を変えているんです。社外の方にも打ち合わせや商談などで広く利用してもらっています。会議室によってデザインが変わるので、社外の方から大変好評をいただいています。

そんなエントランスエリアには、カフェスペースを始めとしたリフレッシュ空間も設けられています。
鈴木:弊スタジオは3つのカフェスペースを設けており、1つ目のカフェがこの「CROSS Cafe」。無料で利用できるドリンクマシンが置いてあり、休憩だけでなくちょっとした打ち合わせにも使えます。ランチ時には、カウンターでお弁当販売も行っています。

鈴木:また、オフィスなどの空間を「人間の健康」の視点で評価・認証するアメリカの「WELL認証」で最高評価のプラチナ取得を目指しており、社員の栄養管理の取り組みのひとつとして100円で購入できる野菜や果物などを置いています。

社員の健康促進は「身体」だけではなく「心」も大切にしています。カフェスペースの向かいにある本棚のテーマは、「挑戦」と「冒険」。「ホンダのほんだな」という名称で、社員がリフレッシュできる空間なんです。

鈴木:一部の本棚は、社員が「棚主」として自分の好きな本やグッズを並べられるスペースとして開放しています。飾るものは、ガンプラでも昆虫標本でもなんでもOKです! 「自分の世界観をさりげなく共有できる場所」として活用してもらいたいです。

本だけでなく、ビートルズなど多彩なジャンルのレコードも置かれている本棚。すぐ横に設置されたレコードプレーヤーで自由に聴くことができます。
鈴木:弊スタジオは、従来の固定席から解放され柔軟で多様な働き方をサポートする「ABW (Activity Based Working) 」を採用しています。仕事からリフレッシュまで、さまざまな用途に使える空間作りを意識しました。

コンセプトは「1周回れるオフィス」。歩くごとに景色が変わる、それぞれの執務エリアのこだわり

「CROSS Cafe」を抜けると執務スペースに入ります。社外ともコミュニケーションが取れるエントランスから一転、「社内のためのコミュニケーションスペース」へと変わります。

鈴木:オフィスが回遊式となっている弊スタジオは「1周回れる」をテーマに、複数のコンセプトからなる執務スペースがありますが、最初のデスクエリアでもあるこの空間は、明るい配色を取り入れています。


回遊式オフィスを進んでいくと、個人ロッカースペースと作業台が現れます。第2の執務エリアです。

鈴木:荷物をロッカーに預け、その日の気分や業務内容にあわせて座る場所を選ぶスタイルです。窓際からは、再開発が進むうめきたエリアや、高速道路がビルを貫くTKPゲートタワービルまで見渡せます。


執務エリアは、進むにつれて、黒を基調とした落ち着いたトーンになっていきます。同じオフィスにいながら異なる空間を感じられるのは新鮮な気持ちです。


オフィスを歩くごとに景色が変わる「Honda Software Studio Osaka」ですが、どのエリアにも共通するのは「壁を感じない」ということです。

鈴木:「Honda Software Studio Osaka」はすべてのエリアで「壁をなくすこと」にこだわりました。エリア内には会議室が大小合わせて20室近くありますが、その多くがガラスで仕切られており、完全な「箱」にはなっていません。どこも「コミュニケーションを促す」仕掛けを施しています。
とはいえ、ソフトウェアエンジニアにとって、思考を深めたり、アイデアを練る時間は必要なもの。そのため、一時的にコミュニケーションを遮断できる3つ目の執務スペース「Quiet Area」も完備されています。

鈴木:ここQuiet Areaでは、私語や会議は一切禁止です。ダークトーンで統一され、視覚的ノイズも抑えられています。「今日はオープンな場所で」「今日はじっくり集中したい」といった心持ちに合わせて、働く場所を選べるんです。
開発拠点を「うめきたエリア」に置いた理由って?
「Honda Software Studio Osaka」の1周にかかった時間は、会話や撮影をしながら約40分。ここからは、コミュニケーションファーストを掲げるオフィスが誕生した経緯や実際の働きやすさについて、鈴木さんと津留さんに伺います。
――まず「Honda Software Studio Osaka」ができた経緯を教えてください。

鈴木:自動車業界はいま「100年に一度」と言われる大変革期にあります。Hondaでも、業界の変化に合わせて大きな改革を進めていて、そのひとつが「ハードウェア中心のクルマづくり」から「ソフトウェア中心のクルマづくり」へのシフトチェンジです。自動車の新たな価値の提供と実現を最速で目指すにあたり、数年前から優秀なソフトウェアエンジニアの採用が急務になっていたんです。
――技術の進歩で、自動車に求められるものが変わってきているんですね。
鈴木:そうなんです。ただ、ソフトウェアエンジニアの採用面に大きな課題がありました。これまでは弊社の開発拠点は関東地区にしかなかったので、優秀な人材を一つのエリアだけで採りきるのが難しくなってきたんです。変革の時代を乗り越えるには全国に目を向けなくてはならない。「Hondaのほうから関東の外に出ていかないとダメだ!」という状況になっていたんです。
――全国に目を向けた結果、拠点のひとつとして大阪を選んだ理由は何ですか?
鈴木:東京に次ぐ大都市である大阪には、高い技術力を持つ企業や、データサイエンスやAI領域で優れた成果を挙げている大学研究機関が多く集まっており、優秀な人材が多いという感覚は以前からありました。結婚や子育て、マイホームなどの理由で簡単にはエリアを動けないけれど、本当はチャレンジしたいエンジニアが大阪にはたくさんいるはずだと考えたんです。
――そこから、大阪での「ソフトウェアエンジニア採用強化」が始まったんですね。
鈴木:2023年秋にヨドバシ梅田タワー内にあるWeWorkに、関西初となる開発拠点を設立し、2025年春にグラングリーン大阪のオープンに伴い移転しました。JR大阪駅直結で滋賀県や兵庫県などからのアクセスも良く、人材が集まりやすいのではないかという期待と、将来的な500名規模の採用計画に合わせた移転でした。
――設立して1年弱が経過しましたが、手ごたえはいかがですか?
鈴木:手ごたえはかなりあります。まず、採用の強化にあたり「求ム、挑戦者。」というメッセージで大々的に求人広告を出したのですが、想像以上の反響がありました。今日一緒にオフィスを回ってくれた津留も、その広告を見て応募してくれた一人です。
――津留さんは、ずっと自動車業界で働いていたのですか?

津留:前職ではバイクのECU※の開発を行っていました。世界的に見ても「Hondaの二輪車」は王者のような存在で、ずっと憧れていました。ただ、鈴木が言ったように、Hondaは関東の会社という印象が強くて、小さい子どもがいる私にとって現実的な転職先ではないと思っていました。そんな時に求人を見つけたので、驚いた記憶があります。「Honda、大阪来るんかい!」って(笑)
※ECU:電子制御ユニット(Electronic Control Unit)の略。自動車のエンジン制御をはじめ、あらゆるシステムの管理や制御を行う装置
――津留さんの入社の経緯はまさにHondaの「狙い通り」だったわけですね。
鈴木:「採用活動を始めてから「熱い挑戦がしたい」というエンジニアが、関西には多いのだと確信しました。今はまだ100名ほどしかいませんが、Hondaで働いてくれるエンジニアがどんどん増えるかと思うと、楽しみでしかありません。
ワイワイガヤガヤ。リモートではなく「リアルや対面でのコミュニケーション」を基本とするオフィス環境

――津留さんは入社約半年になりますが、「Honda Software Studio Osaka」で働いてみて感想はいかがですか?
津留:とにかくオフィスの居心地が良く、どのエリアもすごくお気に入りです。そして、先ほど話したように、本当にコミュニケーションが取りやすいオフィスです。広いオフィスでありながら、交流が取りやすいというのはなかなかない環境だと思っていて。
――これまで働いてきた環境と比べてそう感じるのですか?
津留:弊社を例にあげると、大阪以外にも開発拠点が複数あり、入社後の研修で他の拠点にも行ったのですが、場所によっては敷地が広すぎて「仕事相手と会うまでに10分かかる」なんてこともありました。これはスペースの事情もあるため仕方のないことですが、こうしたケースを考えると、同じ会社でも「Honda Software Studio Osaka」の環境は、エンジニアにとってとても恵まれていますよね。
――黙々と働くイメージのあるエンジニアの方にとっても、コミュニケーションの取りやすさは大切なんですね。
津留:集中して作業をしたいケースもありますが、自動車開発は様々な分野の専門家に分かれているのでコミュニケーションが重要です。それが円滑に細やかに行われることで開発にスピード感も出ますし、アイデアもブラッシュアップされるはずです。

――仕事以外の場でのコミュニケーションはいかがですか?
津留:弊スタジオには同好会のような活動があり、終業後にテニスやフットサルなどを楽しんでいるメンバーもいます。社内イベントもあり、10月には社員の家族をスタジオに招待して、みんなで淀川の花火大会を鑑賞しました。社内外でコミュニケーションが活発に取れていてとても楽しいです!
――津留さんのお話は「Honda Software Studio Osaka」のコンセプトである「コミュニケーションファースト」が機能している証拠なのではないでしょうか?
鈴木:「Honda Software Studio Osaka」では、円滑なコミュニケーションを取れるように「みんなが見える」を意識して働いてもらうことを大事にしています。そうした空間作りはもちろんのこと、例えば会議室でもなるべくブラインドを開けて会議をしましょうといった呼びかけも行い、社員ひとりひとりにもその考えが根付いています。
――そうしたコミュニケーションは、「リモート」ではなく「出社」して行うことを基本にしているのでしょうか?
鈴木:はい。Hondaには「ワイガヤ」(年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤと腹を割って議論する)という社内文化があるのですが、顔を合わせてコミュニケーションを取りながら働くといった考えは、すべての事業所に根付いています。ここでもそれは変わりません。そのため、リアルや対面でのコミュニケーションを基本に置いた働き方をしてもらう方針です。
――そのためには、社員が「会社に行きたい」と思うようなオフィスが必要になりますね。
鈴木:「Honda Software Studio Osaka」に配属されるソフトウェアエンジニアの方々は現在、中途で採用を行っているので、例えば以前の職場では「ほとんどリモートワークだった」といった方も大勢います。「そうした方々に快適に働いてもらうためにはどうすればいいか?」を考え、さまざまな工夫を施したオフィスが完成したと思います。実際に社員間のコミュニケーションはすごく取れていると感じます。津留が話した、花火鑑賞などのイベントごとも行っていきたいですね。
――うめきたと言えば、飲食店もかなり充実しています。会社以外のお気に入りのスポットは見つかりましたか?
津留:はい! 私のおすすめは、イノゲート大阪の「バルチカ03」にある「さかふね」さんです。ランチの刺身定食が絶品でした!

鈴木:私も「バルチカ03」に同僚たちと飲みにいくことが多いです。働く03(おっさん)がコンセプトですが、若い方もすごくいて、活気がありますよね。開拓しがいのあるエリアだと思います。
――「うめきたエリア」には大型施設が続々開業し、有名企業が集結しています。社内だけでなく、エリア全体からも刺激を受けられそうですよね。
鈴木:実は、同じうめきたエリアにオフィスを構える予定の企業さんとのあいだで「せっかくなら交流会をやりましょう」という話も出てきています。あとは、関西に根付く企業様とも積極的に交流していきたいと考えています。せっかくさまざまな業界の企業様が集結する場所にいるのだから、オフィス同様「コミュニケーション」を大切にしていきたいです。

――「Honda Software Studio Osaka」のますますの飛躍を期待しています!本日はありがとうございました!
記事で紹介した「大阪駅周辺」おすすめ飲食店
さかふね
住所:〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田3-2-123 イノゲート大阪 4F バルチカ03
営業時間:月・水・木・金・土・日:11:00 ~14:00 17:00 ~23:00 火:11:30 ~14:00 17:00~ 23:00
定休日:不定休
お問い合わせ:06-6456-7006
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いっちゃん、新しいやつ