歌人・上坂あゆ美と考える、初詣前に「心のモヤモヤ」を本気の願いに変える方法 in 大阪ステーションシティ
どない?
写真:山口梓沙
上坂さんといえば、短歌やエッセイなどの文芸活動もさることながら、ポッドキャスト番組のお悩み相談、そのキレッキレッの回答がいま多くのリスナーから支持を集めています。
たかが初詣、されども初詣。身の丈に合わない願いは身を滅ぼし、手前の願いはすぐに達成できて願い損になることも。なにより、誰だって自分の「本当」が一番よくわからない。年末の迷える編集部三名が、上坂さんとの対話で丸裸にされていき、本気の願いを見つけるまでの相談会、いざ開幕です。
この記事の内容
- 美学を生活の中心に
- 大人の黙らせ方を学べ
- 「言う」からしか始まらない、最高の二者の関係
- 本気で世界中の人の幸せを願ってる
- 大阪ステーションシティ内にある、祈りや願いの周辺にあるプロダクトやスポットの紹介
- 新年に本気の願いを
あらかじめ編集部員には、初詣で神様に提出する予定の願い事を考えてきてもらいました。上坂さんとの対話を経て、願いはどのようにブラッシュアップされていくのでしょうか。

美学を生活の中心に
まずは、推し活に夢中だという編集部のTから。上坂さんとの対話を経て、単なる健康の願いが自身の美学へと、願いの射程を広げることになり……
上坂さん:Tさん、よろしくお願いします。早速なんですが、初詣は何を願う予定ですか?
T:私は「推しのライブに行けるよう健康でいられますように」ですね。

上坂さん:いいですね。よくライブに行くんですか?
T:推しが韓国の女性アイドルで、国内外問わずよく行っています。追っているグループがメインで3つ、サブで2つあるので、ライブやイベントは1ヶ月に3〜4回は自動的に入っちゃう感じですね。
上坂さん:それ、ほぼ毎週じゃないですか?
T:推し活するために働いているみたいなところがあるので……

上坂さんは、推しから得ているものや、推しに何を期待しているのか、など淡々と質問を重ねていきます。相手のプライベートには踏み込みすぎない絶妙な距離感でした。
上坂さん:健康には自信がある方ですか?
T:基本的に推しに会える時には元気で、それ以外は体調が悪いです。推しに会えば体調が回復するから、生活には支障はないんですけど……
上坂さん:それ、支障ないんですかね……。
T:いや、そうですね。本当は支障があるんです。推し活ってお金がないと続けられなくて、資金源を確保するためには働かないといけないので。

上坂さん:面白いですね。いま支障がないとおっしゃったのは、たとえば「身の丈に合わない金銭を溶かしているわけではない」という意味での“支障はない”ですよね。「仕事を休むとお金がもらえないから支障がある」というのは、Tさんの推し活は金銭投資が軸として強くあるってことだと受け止めました。
T:たしかにそうかもしれないです……

上坂さん:じゃあ、なんで「お金が欲しい」って願わないんですか?
T:実は、あまりよろしくない方法で手に入れたお金を推しに貢ぐ人もいたりして。でも私は「自分のできる範囲で、無理せずに推し活をする」ことに意味があると思ってるので、「推しに貢ぐためのお金をください!」と神様にお願いするのはなんだか違うかなあと思っています。
上坂さん:なるほど、そこは美学ですよね。全員が持っているわけではないものだと思います。話を聞いていると、Tさんの根底にあるのって、「プライドのある浪費」なんですよ。だから、自分の健康さえ保たれてたらそれでいいわけでもない気がしていて。
T:あぁー
上坂さん:「推しに与えるお金は自分が汗水垂らしたきれいなお金であるべきだ」っていう美学から派生させて、「推しのために働くことは楽しいことだ」とか、「推しのためにジムに通う」とか、すべての生活の中心に美学を置くと、もっと健やかになるんじゃないかと思ったんですけど、どうですか?
T:とってもいいです……
上坂さん:なので初詣では、たとえば「推せし者としてもっと素敵な自分になる」っていうのはどうでしょう? 楽してお金を得られる誘惑もありながら、自分のペースを崩さず不惑の心を持つこと。つまり、「美しく推せますように」ってことですよね。


隣で聞いていた別の編集部員が、思わず「Tさんは美しく推したかったんだ……」と言葉を漏らしていました。神業としか言いようのない対話術。気になって上坂さんに尋ねてみました。
ー 今、なにが起こってたんでしょう? 相手の話を整理しながら、根底にあるものを見つけ出し、本気の願いとして言語化する。そんなことを高速でやってませんでした?

上坂さん:なんて言えばいいのかな。私、真実過激派なんですよ。心の奥底にある真実を言葉にしたいとどうしても思ってしまって、そのせいで社会では事故ることもありますから、この性質は必ずしも良いことではない。でも逆に、世間体やプライドを気にして本音が言えなくなってる人が、私のように丸裸の人によって言葉にしたかった欲望に気づくこともあるのだとすれば、それは素直に嬉しいですね。
静かにごく淡々と、欲望を願いに変えていくセッションは続いていきます。
大人の黙らせ方を学べ
二番手はこの企画の発起人で、上坂さんのポッドキャストのヘビーリスナーでもある編集部のR。ふわふわとしていた仕事への憧れが、対話を経て「稟議の通し方」にまで削ぎ落とされていきました。
R:私の願いは「いい仕事ができますように」です。よろしくお願いします。

上坂さん:ということは、今はあんまりいい仕事ができてないんですか?
R:「いい仕事とは何か?」の答えをまだ持っていないような感じです。私、とんでもなく飽き性で……。興味がどんどん移り変わるので、ラランドのサーヤさんのようにお笑いから音楽までマルチに才能を発揮している人に憧れるし、かと思えば、一つの道を突き詰める職人のような人にも惹かれてしまう。あっちもいい、こっちもいいって、全方向に憧れが散らばっちゃってるんですよね。

Rの仕事の苦悩は多岐にわたります。上坂さんは質問を繰り返し、相手の根底にある感情を探っていきました。
上坂さん:仕事をしていて、これだけは嫌だってことはありますか?
R:合議制や同調圧力、みたいなものにすごく苦手意識があります。たとえば会議の場で、空気を読んで自分を偽ったり、納得もしていないのに周囲に合わせたりすることだけは、やりたくなくて。
上坂さん:「意思強い」のがかっこいいって感じなんでしょうか。Rさんの理想は、少数派でも自分の意見を通すことなのか、多数派に受け入れられるいい仕事をすることなのか、どちらですか?
R:「最初は少数派の異論だったけれど、最終的にはみんなに受け入れられた」という形が一番の理想です。大人数の会議って、どうしても波風を立てないことが正解っぽくなってしまうじゃないですか。異物を排除するような空気が充満していて、それがすごく息苦しいです。とはいえ、自分もまだ未熟なので、その空気を突破して自分の想いを届けきる力が足りないな、と痛感する場面も多くて。

上坂さん:Rさんは近いうちに気づくと思うんですが、尖った意見を持っている人って、同時にそれをつまんねぇ大人たちに納得させる術を持っていることが多いんですよね。なので、尖った意見の発信は後回しにして、先に大人の黙らせ方を学んでおくといい気がします。あまり大人を仮想敵にしない方がいいかもしれないですね。逆につまんねぇと思う人に会ったら、「大人を学べるぞ!」って変換していければいいなぁって思いました。
R:うっ……本当にその通りだと思います。上坂さんも会社員だったとお聞きしたのですが、大人の黙らせ方をどうやって学んでいきました?

上坂さん:時には血を流しながら、データを貯めていきましたね。普通に喧嘩もしましたし、怒られたり、ドン引かれたりを繰り返して、一度褒めておくとスムーズに進むのかとか、こういう言い方をすればいいのかとか、少しずつです。
R:たしかに、それは会社という組織にいるからこそ学べることですもんね。
上坂さん:最初の願いに戻ると、いい仕事には「大人の黙らせ方」、つまり「稟議の通し方」を知ることが、マスト条件だと思うんですよ。なので、初詣の願い事、これはどうですか。「稟議の通し方を学べますように」。


R:いやぁ……本当に、それだ! 身に付けなきゃと思いながらも、実力以外のところで物事が決まっていくことへの嫌悪感がすごくあって。私めっちゃお酒飲むんで、スナック行って肩組んで歌うとかは楽しくできるんですけど、いざ仕事の現場で向き合った途端、急によそよそしい空気を感じて、距離の詰め方がわからなくなる。どこかで「媚びたら負け」という、変な意地を張っていたのかもしれません。

上坂さん:めっちゃすごくないですかそれ? 組織の落とし方を大きく分けて二つあるうちの、「友達として陥落させる系」ですよね。私は企画の正当性を高めるために資料の数字をめっちゃ詰めるとか、そういう理論系しかできなかったから、羨ましいです。絶対その先にいい仕事が待ってますよ。
R:ありがとうございます!ずっと避けていた課題を言葉にしてもらえました。上坂さんのおかげで、来年は「稟議を通すための学び」として腹を括れそうです。
またしても本気の願いを言語化してもらった編集部員。本気の願いを提示されたとき、Rがちょっと嫌そうな顔をしていたのが、リアルでした。
「言う」からしか始まらない、最高の二者の関係
最後の相談は、編集部で最年長者のKから。本人曰く、恋愛にまつわる人間関係の悩みと本気で向き合っているとのこと。「僕の相談はちょっとガチすぎるかも」の一言から始まり……
上坂さん:来年、初詣で何を願いますか?
K:はい。願いは「いい出会いに恵まれますように」になるのかなぁ。

上坂さん:テーマがテーマなので突っ込んで聞くんですけど、どんな出会いが欲しいんですか?
K:うーん、なんというか。自分のことを許容してくれるというか、良いとこも悪いとこも含めて受け入れてくれる人ですかね。

上坂さん:パートナー関連で、直近なにかあったりしたんですか?
K:えぇ……実は、長く付き合っていた彼女に浮気されたんですよね。その女性とはお互いにわかり合っていたと思ってたんですけど。なんでそんなことが起きたのか、気持ち的に受け止められない部分が大きくて、今も整理している最中です……
上坂さん:なるほど。浮気された時、一番ショックだったのはどこでした? 関係を持たれるのが生理的に無理って人もいれば、嘘つかれてたのが嫌、言ってくれなかったから嫌だとか、浮気の痛みっていろいろあると思うんですよ。
K:難しいんですけど、ひとつは嘘を隠されていたっていうことと、もう一個は、人としてナメられたこと、ですかね。
Kは、浮気されてなお癒えきらない心の傷について、ぽつりぽつりと語り始めました。じっと聞き続けてから、間を置くようにして、上坂さんが言葉を発します。

上坂さん:わたし、恋愛って人間が普通こうだよねっていう論理に縛られがちなジャンルだと思ってて。例えば「付き合ったら普通結婚するよね」もそうだし、「記念日は普通祝うよね」もそうだけど、この「普通」ってそれぞれにめっちゃ幅があると思うんです。
K:はい。
上坂さん:私は、恋愛って二人の間でオリジナルの「普通」を見つけるゲームだと思っていて。恋愛ってまじで社会一般の「普通」に価値がなくて、二者間の合意が重要なんです。相手をないがしろにしないためにも、「私はこういう考えでそれを受け入れてくれますか」というコミュニケーションをどれだけ丁寧にできるかに尽きると思っていて。
K:わかります。

上坂さん:Kさんははじめの願いで「良いとこも悪いとこも含めて受け入れてくれる人」っておっしゃってましたけど、そんな人ってたぶんいないんですよ。もしそれを望むなら、受け入れてもらえるようにプレゼンするしかないんだと私は思うんです。つまり、お互いの欲望という稟議をN=1の一人に対してどう通すかって話だと思うんですよね。
K:あぁ、わかってきました。僕、相手に自分の不快な気持ちを伝えるのが得意じゃなくて、いつも合わせちゃうんですよね。
上坂さん:なるほど、わかりました。Kさんに今一番大事なのは、あなたとこういう関係でいたい、とちゃんと言えますようにって、願うことなんじゃないかな。世界のどこかに運命の相手がいるわけじゃなくて、お互いに心地いい関係になるために要望を出し合って、ギリ折り合える人が「運命の相手」っぽく見えるってことです。最高の相手がいるわけじゃなくて、二人で話し合った結果、最高の二者の関係があるだけ。
K:たしかに、いま自分が悩んでいるのは、相手が見つからないからというより、こうありたい・ありたくないという理想の関係性を相手に伝えられていないから、だったのか。
上坂さん:初詣のお願い、「いいリレーションシップを築けますように」がいいんじゃないですか?


Kからの相談は続き、自己開示することの難しさについて、編集部員一同で考えることに。それぞれが本気の相談を交わしたからか、不思議な一体感がチームに宿っていたような気がします。
本気で世界中の人の幸せを願ってる
本気の願いにたどり着いた編集部員を、上坂さんはどのように見ていたのでしょうか。最後に、上坂さんに質問をしてみました。
ー冒頭で上坂さんは願いごとはしないとお聞きしたのですが、今日は三人の願いに向き合うなかで、なにか願ってみようかなぁって思ったりしました?
上坂さん:うーん、あまり思わなかったですね。
ー 頑なですね。
このまえ、自分のいいところを真剣に考えた結果、本気で世界中の人の幸せを願ってるところかなって思ったんです。自分が嫌いな人とかも含めて「幸せであれよ」って思ってるんですよね、私。だから、なにか願うなら、みんなが幸せだといいなって思いました。

相談に乗ってもらった上に、幸せまで祈られてしまった編集部一同。初詣前の願い事相談会は、万感の思いで幕が下ろされました。
取材した場所

梅田 蔦屋書店 シェアラウンジ
住所:〒530-8558 大阪府大阪市北区梅田3-1-3 ルクア イーレ 9F
アクセス:JR「大阪駅」から直結
営業時間:8:30~21:00
- 公式Instagram
※最新の営業時間及びその他お知らせはSNS等で更新しております
上坂あゆ美さんの著書

左:「老人ホームで死ぬほどモテたい」
右:歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む
梅田 蔦屋書店で取り扱いあり(2025年 12月26日時点)。最新情報は書店へお問い合わせください。
大阪ステーションシティ内にある、祈りや願いの周辺にあるプロダクトやスポットの紹介
はじめにご紹介するのはお香専門店QNOWA(クノワ)です。2024年夏に大阪・KITTE大阪にオープンした、お香を新しい感覚で体験できる専門店。創業文化元年(1804年)の老舗薫香メーカー・玉初堂が掲げる新しいお店のテーマは「時間」です。

代表的アイテムは、朝・昼・夕・夜の時間帯や気分に寄り添う「Moments」シリーズ、伝統的な調合法を現代にアップデートした「Inspired」など。香立てや茶香炉などの関連アイテムも厳選されています。


なかでも、「塗香」という火を使わず肌に塗り込んで使う細かいパウダー状のお香は、香水のように普段使いができるアイテム。元々は仏道修行で心身を清めるために使われていたもので、初詣にはピッタリかもしれません。

【お香専門店】QNOWA(クノワ)
住所:大阪府大阪市北区梅田三丁目2番2号 KITTE大阪3F
営業時間:11:00-20:00 *KITTE大阪に準ずる
電話番号:06-6131-8246
続いてご紹介するのは「祈祷室」です。多くの旅人が行き交う大阪ステーションシティにある、宗教や宗派を問わず利用できる、祈りのための空間です。

祈りや願いのかたちは、人や国、文化によって実にさまざま。その多様性に静かに寄り添う場所として、この空間は設けられています。

祈祷室
住所:サウスゲートビル1階「南ゲート広場」
営業時間:11:00~18:00 *最終受付17:30
受付方法:当日のご利用前に「大阪ステーションシティインフォメーション」(ノースゲートビル3F)へお申し出ください
新年に本気の願いを
歌人の上坂あゆ美さんに協力してもらって実施した、初詣前お悩み相談会。本気の願いは、案外自分でも気づかない場所に眠っているものなのかもしれません。誰かに打ち明けて対話をしてみれば、自分の「本当」が見えてくるかも。
さぁ、2025年もあと少し。新しい年のはじめに、あなたは何を願いますか?
いっちゃん、新しいやつ
